「上手く潜り込めたら、まず元康を懐柔しろ。」
「懐柔って……俺にそんな腕はないですよ。それに元康は曲者なんですよね?」
「まぁ、簡単ではないがお前は意外と人の懐に入っていくのが上手い。嫌われる事はないと思うぞ。」
「そ、そうですか?」
何気に褒められて照れる蘭。蝶子はそんな蘭を呆れた顔で見た。
「で?そもそも何で蘭が密偵なんて仕事しないといけないの?何が目的?」
「言っただろう。義元には『物体取り寄せ』という力があると。」
「……あ!まさかその力を使わせるのが目的…ですか?」
蘭が控え目に聞くと、信長は頷いた。
「お前達はタイムマシンとやらがあれば元の世界に帰れるんだろ?」
「え、えぇ……」
「義元の力でそのタイムマシンを出してもらえば万事解決。お前らは未来に戻れる。どうだ?お前達の為になるだろう?」
笑いながら言っているが、何処か悲しげな表情の信長だった。
それを見た蘭は即座に首を振る。
「それは多分無理です。」
「何故だ?義元は何でも取り寄せる事が出来るのだぞ?」
「まずタイムマシンはそう実在するものではありません。優秀な科学者である蝶子の親父さんでさえ、作るのは難しいそうです。俺達が乗ってきたやつは俺の親父が作った物ですが、ポンコツだからここに着いた瞬間壊れてしまった。つまり実用可能なタイムマシンは何処にもないんです。」
「でも架空の物でも手に入れられるんでしょ?その義元って人。じゃあ実在してなくても出来るんじゃない?」
蝶子の言い分にも蘭は首を横に振る。
「もし出来ても、そんな架空の物に乗ろうと思うか?」
「……思わないかな。」
一瞬考えてそう答える蝶子。それに頷いて蘭は言った。
「という事ですから、義元にタイムマシンを出してもらうというのは、無理があると思います。」
「…………」
「あ!でも、ありがとうございました!俺達の為に色々と考えてくれたんですよね。信長様って本当は優しいんですね。」
「煩い。蘭丸のくせに主君である俺の意見を退けるなど、百年、いや千年早い。」
そっぽを向いて怒っているが、その頬は若干赤い。初めて見るそんな姿に、蝶子の顔がニヤけた。
(へぇ~可愛いところあるじゃない。)
「……まぁ、無理だと言うならこの案は却下だ。今のところはな。」
「今のところ?」
「この先何があるかわからん。もし義元の力が必要になる時がきたら、その時は……」
「はい。さっきの作戦を実行するんですね。俺、やります。」
「蘭!」
「強くなるって決めたから。俺に出来る事を出来る範囲でやりたいんだ。それに……」
「それに?」
オウム返しをする蝶子に、ニッと笑って蘭は言った。
「今川義元と松平元康に会いたいんだ。一体どんな人なんだろ~な~」
一瞬の沈黙。そして蝶子の叫び声が響いた。
「私の心配を返せ!」
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