「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって。親父はぐっすり寝てるよ。一度寝たら朝まで起きないタイプなんだ。」
「あ、そう……」
蘭と蝶子は抜き足、差し足、忍び足で研究所に入り込んだ。電気を点けたらバレるかも知れないと、一応懐中電灯を持参して。ちなみにこの時代の懐中電灯とは、宙に浮きながら明るい所と暗い所をセンサーで判別して点いたり消えたりするという物である。
「ここだ。入るぞ。」
「あ、待ってよ……」
研究所の一番奥の部屋の前で蘭が立ち止まる。焦った蝶子がその背中に激突した。
「いったぁ~い!急に止まらないでよ!」
「何だよ、ぶつかってきたのはそっちだろ?」
「何ですって!?」
いつもの言い争いが始まりそうになったその時、灯りが二人を照らし出した。それは電灯の灯りだった。
「誰だ!そこにいるのは!?」
「やべっ!親父だ!蝶子、入るぞ。」
「え?え?」
蝶子は何が何だかわからないまま、蘭に腕を引っ張られて目の前の部屋の中に連れて行かれた。
「ちょっと蘭!」
「しっ!静かにしろ……!」
蘭が真面目な顔で鋭い声を出したから、蝶子は大人しく口をつぐんだ。
ゆっくりと足音が近づいてくる。二人は息を潜めて吉光が気づかずに通り過ぎるのを待った。
やがて足音は聞こえなくなり、静寂が辺りを包む。二人のため息だけが響いた。
「はぁ~…ビックリした……」
「ビックリしたじゃないよ。おじさん起きてたじゃないの。」
「おっかしいな……ちゃんと寝てるの確認したんだけど。」
「虫の知らせでもあったんじゃない?今夜息子が忍び込みますよ~って。」
「こぇ~事言うなよ……」
ありそうな事を言われて若干震えが走る。それを見て蝶子が笑った。
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