「はぁ~………仕方がない。使いたくはないが、『心眼』の力を……」
「言います!うろ覚えですが俺が知ってる事を言います。」
「蘭……」
 今まさに力を使おうとしている信長を制してそう宣言する。そんな蘭を蝶子が心配そうに見ていた。
 蘭は蝶子に目で『大丈夫』と合図して息を吸い込んだ。

「今川軍が桶狭間で休息をとっているところを、織田軍が後ろから奇襲をかけて合戦が始まります。そして戦いの末、織田軍が勝利して今川義元は討ち死にします。この戦いは『日本三大奇襲』と呼ばれ、後世まで語り継がれる歴史上有名な合戦です。」
 一気に捲し立てると盛大にため息を吐いた。

(言い過ぎたかな……?でも俺がここにいる理由はこういう事を教える為だし。今川は何も血縁関係とかないから変に感情も沸かないし。)

 そう思っていると信長が笑いを噛み殺しながらこっちを見ていた。
「な、何ですか?」
「そんなに詳しく言われるとは思わなかったぞ。驚いたな。」
「え?あ、ちょっと…言い過ぎました……」
「構わん。それよりいい事を聞いたな。桶狭間で休息中に、ね。」
 不敵な笑みを浮かべる信長に背中を震わせていると、当の信長が今思い出したというように扇子で左手を叩いた。

「あぁ、そうそう。義元と言えば『物体取り寄せ』という力があるそうだ。」
「物体…取り寄せ?」
 蘭と蝶子は揃って首を傾げた。
「願えばどんな物体でも手に入れる事が出来るそうだ。それは実在する物はもちろん、架空の物や魔術を宿した物でも何でもいい。義元自身が脳裡に描いた物を何もない空間から出現させる。それが『物体取り寄せ』の力さ。」
「そんな……架空の物とかまで手に入れられるなんて万能じゃないですか!」
 蘭が思わずといった様子で叫ぶと、信長は『まぁまぁ。』と両手を前に出して落ち着くように促した。

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