「はぁ……はぁっ…も、もう勘弁して下さい……」
「いいや、まだまだ!お前さんには厳しくしろと殿から言われておる。さぁ!あと十本!」
「ひぇぇぇ~……」
蘭は情けない悲鳴を上げながら勝家の振った竹刀から逃げた。
「こら!逃げるな、蘭!」
即座に廊下から蝶子の檄が飛ぶ。蘭は息を切らしながら一応構えた。が、鬼のような形相で向かってくる勝家がどうしても恐くて、寸前でかわしてしまった。
「それでは練習にならん!蘭丸、覚悟ぉぉ!!」
「わぁぁぁ!!」
真っ正面から上段で振りかぶってこられた。蘭は取り合えず目を瞑って竹刀を前に出した。
(あぁ~……こりゃ、痣ではすまないかも……)
骨折覚悟で奥歯に力を入れる。しかしいつまで経っても訪れるはずの衝撃がこず、辺りはしーんと静かだ。
蘭は恐る恐る目を開けた。
「……え?」
目の前には勝家の渾身の一撃を見事に防いだ自分の竹刀があった。
「……す、すごぉい!蘭!やったじゃん!」
「え?え?」
「見事な防御だったぞ、蘭丸!」
勝家に肩をバシンッとやられて茫然としつつも、徐々に喜びが沸き上がってきた。
(防げた……初めて……)
「やったー!!」
「おめでとう、蘭!まぁ、目を瞑ってたのがちょっと残念だけど。」
「うるせぇ!でも嬉しい。勝家さん、ありがとうございます!」
「確かに今までのお前さんから見たら格段の差かも知れんが、戦は防御だけじゃ殺られるぞ?止めた上でやり返さないとな。」
「そりゃ、そうですけど……あともうちょっと喜びを噛みしめても……」
嫌な予感を抱きながら勝家を見ると、もう既に臨戦態勢だった。
(ちょっと待って!まださっきの衝撃で手がしびれてっ……)
「あと二十本!」
「増えてるし!?」
結局この日は二十本中二十本、逃げてただけだった……
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