末森城、大広間
「信勝……」
「…………」
信長の声にふて腐れた顔でそっぽを向いた信勝を見て、二人の母――土田御前は慌てた。
「これ!信勝!」
「母上。俺は降伏するつもりはないと言ったではないか。それなのに簡単に敵軍の、あろう事か総大将を城に上げるなど……常軌を逸している。」
「信勝!!」
「っ……」
母親に不満を並べていた信勝だったが、信長の一喝で黙り込んだ。
「俺が無理を言ったのだ。母上を責めるのはよせ。」
「…………」
「この末森城、そして那古野城の城下に火を放った。」
「なっ!」
「早く何とかしないと丸焼けになるぞ。いいのか?」
「くっ……脅しているのか?」
「そうとってくれても構わん。」
「……何て卑劣な…」
信勝は自分の着物の裾を握り締めた。土田御前がハラハラしながら見守る中、信勝が顔を上げた。
「……わかった。降伏する。」
「賢明な判断だ。」
「もう二度と顔を見せるな!」
大声で喚くと障子を勢い良く閉めて出ていった。
「協力、感謝します。母上がいなかったら信勝と会えなかった。」
信長が慇懃と頭を下げる。それを見た土田御前は手を横に振って言った。
「いいのです。それに本来ならこちらから出向かねばならないところをこうして来て下さって、ありがとうございます。信勝に変わり、感謝申し上げます。」
そう言って丁寧に頭を下げた。
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