蘭と蝶子が幼馴染である所以は、二人の父親が小さい頃からの喧嘩友達だというところが大きい。年齢が一緒、家が隣同士というのに加えて将来の夢が科学者という共通点を持ちながら育ち、それぞれの道を歩みながらも意識の片隅でお互いをライバル視しているという関係である。
 片やノーベル賞受賞者、片やポンコツ呼ばわりの物理学者という妙な取り合わせなのだ。
 しかし吉光の名誉の為に言っておくが藤森吉光という人物も相当な頭脳の持ち主で、書いた論文はどれも評価が高く、物理学の世界においては優秀な学者である。ただ技術が伴わないだけで……

「とにかくさ、お前にも見せたいんだ。今夜もう一回忍び込むから一緒についてきてくれよ。な?」
 康三に聞こえないように顔を近づけてそう囁いてくる蘭に戸惑いながら蝶子はもじもじする。
「こ、今夜?」
「あぁ。ダメ?」
「……わかった。何時に行けばいいの?」
「やった!じゃあ俺が迎えに行くよ。一応女の子だからな。夜中に一人で外歩かせて何かあったら大変だからさ。」
「……それはお気遣いありがとう。」
 本気なのか皮肉なのか良くわからない蘭の言葉に、複雑な表情でそう答える蝶子だった……

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