「吉光おじさんの研究は?進んでる?」
「そうだ!それを言いにきたんだった!忘れてた!」
「イチの手料理食べにきたんじゃなかったの?」
「それもあるけど。つぅかそっちが八割くらいだけど、親父の奴すんげぇ物発明したかも知れないんだ!」
「すんげぇ物?」
 興奮した様子の蘭に蝶子は首を傾げた。

「この間親父の研究所に夜中こっそり忍び込んだ時にさ、見覚えのない小部屋があったんだ。俺の知らない内に増設したんだろうけど、中に何があるのかどうしても気になって入ってみたんだ。」
「無断で?ダメじゃない。科学者にとって研究を行う場所は聖域よ?」
「わかってるよ、そんくらい。でも内緒で部屋作るなんてただ事じゃねぇだろ。いかがわしい物作ってんじゃねぇかって心配になってさ。」

『心配っていうより好奇心でしょ。』
 と、心の中ですかさず突っ込む蝶子だったが、次の蘭の言葉に目を見開いた。

「いざ入ってみたらさ、でっかい乗り物が鎮座してて。色々調べたらどうやらタイムマシンみたいなんだ。」
「タ、タイムマシン!?」
「バッ……カ!声でかい!」
「タイムマシンが何だって?」
「あ、父さん。」
「げっ……おやっさん……」
 蝶子の大声に反応してのっそり現れたのはこの家の主、康三だった。
 康三は汚れた白衣のままでダイニングテーブルに着くと、イチに向かって『おい!』とだけ言って蘭に向き直った。
 それだけでイチには通じるらしい。

「あやつがタイムマシンなんぞ作れる訳がなかろう。ポンコツだぞ?」
「ちょっと父さん!」
「いいんだ、蝶子。本当の事だから。」
 蘭の言い草に頬杖をついていた右肘がズルッと滑った。

「でもでも!今度ばかりはマジっぽいんだ。見た限り何処にも不備はなさそうだし、マニュアルに書かれている数式にも矛盾はないと思う。」
「ふんっ!歴史なんて無意味なものにうつつを抜かしてる若造に何がわかるんだ。とにかくあやつにそんな大層な物を作れる力はない!……わしにも作れなかったんだ。あのポンコツにできる訳がない……」
 最後の言葉は極めて小声だったが二人にはばっちり聞こえていた。蘭達は顔を見合わせて苦笑した。

.