「だから早い内に信包と結婚させて織田家と関係がある事を事実としなければならない。心の傷が癒えるまで待ってる時間は正直ない。……市。」
「はい。」
「難儀だと思うが、説得してくれ。二年後に祝言を挙げる事は本人も知ってる事だから、ここに嫁ぐ事自体はわかってくれると思う。だが……」
「確かに今は時期が悪いですね。そういう場合ではないと突っぱねられる恐れがあります。でも必ず、説得してみせます。」
「頼むぞ。」
「はい。お兄様。」
 ゆっくりと頭を下げる市を見つめながら、蘭は大きく息を吐いた。

(何か……情報量が多すぎて良くわからないけど、今の状況って結構ピンチ?道三が死んで息子の義龍がこの清洲城に攻めてくる?そんな事歴史のテキストに書いてなかったぞ?これってやっぱり俺達のせい……なのか?)

 そこまで考えてハッと隣を見た。蝶子は難しい顔で信長をじっと見つめていた。

「ねぇ。」
「何だ?」
 唐突に蝶子が声を出した。蘭はハラハラしながら蝶子を見守る。
「私はどうすればいい?」
「どう、とは?」
「だってこのお城の中では私が濃姫って事になってんでしょ?父親が兄に殺されたというのに、平気な顔していたら皆変に思うじゃない。」
 蝶子のごもっともな指摘に一瞬呆気に取られていた信長だったが、すぐにいつもの悪戯気な笑顔になった。

「そうだな。お前はなるべく部屋から出ないようにしろ。何かあったら市か可成を呼んで用事を済ますように。」
「はい。わかりました。」
 市の真似をするようにゆっくり頭を下げると、ニコッと笑顔を見せた。

(蝶子……強いな。)

 蝶子の性格からして本物の濃姫に対して罪悪感や同情の気持ちを抱いているのは明らかなのに、それを見せないように笑っている。
 蘭はその神々しく見える姿に、しばし見とれた。



「だから早い内に信包と結婚させて織田家と関係がある事を事実としなければならない。心の傷が癒えるまで待ってる時間は正直ない。……市。」
「はい。」
「難儀だと思うが、説得してくれ。二年後に祝言を挙げる事は本人も知ってる事だから、ここに嫁ぐ事自体はわかってくれると思う。だが……」
「確かに今は時期が悪いですね。そういう場合ではないと突っぱねられる恐れがあります。でも必ず、説得してみせます。」
「頼むぞ。」
「はい。お兄様。」
 ゆっくりと頭を下げる市を見つめながら、蘭は大きく息を吐いた。

(何か……情報量が多すぎて良くわからないけど、今の状況って結構ピンチ?道三が死んで息子の義龍がこの清洲城に攻めてくる?そんな事歴史のテキストに書いてなかったぞ?これってやっぱり俺達のせい……なのか?)

 そこまで考えてハッと隣を見た。蝶子は難しい顔で信長をじっと見つめていた。

「ねぇ。」
「何だ?」
 唐突に蝶子が声を出した。蘭はハラハラしながら蝶子を見守る。
「私はどうすればいい?」
「どう、とは?」
「だってこのお城の中では私が濃姫って事になってんでしょ?父親が兄に殺されたというのに、平気な顔していたら皆変に思うじゃない。」
 蝶子のごもっともな指摘に一瞬呆気に取られていた信長だったが、すぐにいつもの悪戯気な笑顔になった。

「そうだな。お前はなるべく部屋から出ないようにしろ。何かあったら市か可成を呼んで用事を済ますように。」
「はい。わかりました。」
 市の真似をするようにゆっくり頭を下げると、ニコッと笑顔を見せた。

(蝶子……強いな。)

 蝶子の性格からして本物の濃姫に対して罪悪感や同情の気持ちを抱いているのは明らかなのに、それを見せないように笑っている。
 蘭はその神々しく見える姿に、しばし見とれた。

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