更に数日後、信長が帰ってきた。疲れているだろうに城に着いてすぐ蘭と蝶子を呼び出し、市や可成も含めて大広間に集めた。
「ご無事で何よりです。」
まず最初に市がそう言って沈黙を破った。それを受けて信長は軽く頷いてみせると、一同に向かって声を出した。
「聞いていると思うが、道三が死んだ。」
いつも通りの口調だが、信長なりに道三の死を悼んでいるように蘭は感じた。
(やっぱり歴史は変えられなかったか……)
斎藤道三が死んだという事は、信長に取って大きな後ろ楯を失った事になる。それは本当の親戚関係ではないこの世界でも同じ事で、和睦が成立したのは最近だが、信長の父親の信秀の代からお互い歩み寄ろうとしていた。
信長は濃姫と結婚する気はなかったが、斎藤家との繋がりは切りたくなかった為、自分の弟に嫁がせてまで関係を保とうとしたのだ。
そんな間柄だったから余計に、その存在がいなくなってしまった事が無念でならないのだろう。
「あの……本物の濃姫はどうなったんですか?」
蝶子が恐る恐るそう言うと、『まずその話からだな。』と言って肘置きに体重をかけた。
「心配するな。濃姫なら道三の居城の大桑城にいたところを勝家が救いだしてきた。戦場が離れていたから無事だったんだ。だが……」
「どうしたんですか……?」
珍しく言葉に詰まる信長を心配そうに見る蝶子。蘭も不安になりながら視線を送った。
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