「まさか……信長様は俺達に生き延びる方法を教えろという事ですか?」
 蘭の言葉に市は深く頷いた。
「じゃあ俺が歴史の勉強をしているという事もわかっているんですね。」
「そう申しておりました。」
「無理です!いくら未来から来たって、起こった出来事を勉強してきただけの俺に、助かる方法なんてわかるはずないですよ!」
「そうなのですか?」
 キョトンとする市に向かってため息をつくと、更に捲し立てた。
「そうですよ!それに俺はただの大学生。しかもちゃんと勉強し始めたのはつい最近からです。そんな事言われても期待に応えられません。」
 最後はぐったり項垂れる。言ってて自分で悲しくなってきたのだ。

(こんな事ならもっと早く、中学生くらいから自主学習しとくんだった……でもそうだとしてもやっぱり変わらないか。未来を変えるなんて無理……)

「しっかりしなさい、蘭!まだ無理と決まった訳じゃないでしょ!」
「ちょっ……蝶子!?」
 突然立ち上がった蝶子に、蘭も市もビックリする。蝶子は腰に手を当てて言った。
「要するに信長を死なないようにすればいいのよね?できないなんて言わないで、何とかしてあげようよ。蘭は今、信長の家来なんでしょ?主君を守る為に頑張るのが役目なんじゃない。」
「蝶子……何か格好良いぞ、お前……」
「まぁ!さすがお兄様の御正室でいらっしゃいますわ。こんなに親身になって下さるなんて、お兄様も大変お喜びになるでしょう。」
「え?あ、いえ……そういう訳では……」
「蝶子は困ってる人を放っとけない奴なんです。だから深い意味は……」
『ない』と続けようとした時、廊下が騒がしくなって突然戸が開く。そこには光秀と柴田勝家がいた。

「何ですか!騒々しい!それに勝手に入ってくるなど、失礼ですよ!!」
 市が見た事のない怒りの表情で注意するも、光秀と勝家はそれに気づいてない素振りで部屋の中に入ってきた。酷く慌てていて汗が凄い。そして焦ったような声で光秀が言った。
「美濃の国が大変な事になっています!斎藤道三氏が息子から裏切られて、戦が始まったと報せがありました!」
「え……?」
 三人共絶句する。そして蘭は蝶子の方を見た。

 斎藤道三、それは蝶子(濃姫)の父親であると同時に、信長の舅という事になっている。という事は……
「信長様も出陣します。ですがその前にお二人にお話があるそうです。私と一緒に来て下さい!」
 光秀の声が遠くから聞こえる。蘭は崩れ落ちそうになる体を必死に保っていた。

 ここで二人は初めて現実に直面する……

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