「それは何ですか?」
「あ、いや、えっと……これは……」
 タイムマシンの残骸を指差されて狼狽する。何か上手い言い訳はないかとぐるぐるしていると、頭の上から控えめな笑い声がした。顔を上げると市が口元に手を当てて笑っていた。
「あ、あの……?」
「ごめんなさい。貴方達の反応が楽しくてつい。……ちょっといいかしら?」
「ど、どうぞ。」
 市を部屋に入れると、上座に座っていた蝶子の前に当たり前のように座った。

「あの!こちらに座って下さい。」
 慌てて位置を変わろうとした蝶子を、首を横に振って制する。そして言った。
「前にも言いましたが、貴女はわたしより立場が上です。ここで構いません。」
「じゃあ……お言葉に甘えて。」
「あの、市様。これはその、やんごとなき事情がありまして……」
 蘭がそう言いかけると、今度は手で制して口を開いた。
「これはタイムマシンとやらの欠片ね。」
「え!?どうしてそれを……」
「やっぱり信長……様は全部ご存じなんですね?私達の事。」
 鋭い声でそう問いかけると、市は申し訳なさそうな顔で言った。

「はい。500年以上先の未来からタイムマシンという機械に乗ってあの裏山に辿り着いた事。貴方達のいた所はこことは時空が違う可能性がある事。細かいところまではわからなかったみたいですが、大体合っているはずだと。どうですか?」
 市の話を聞きながら呆気に取られた。ほぼ事実が知られていたという事もそうだが、こんな大事な事をどうしてちゃんと言ってくれなかったのだろう。言ってくれればこっちだって素直に話したのに。
「申し訳ございません。お兄様は持って産まれた心眼という力を、心底嫌っています。でも場合によって使わざるを得ない時もある。そしてそこで視た事柄のほとんどは、なるべく他人に口外しないようにしているのです。その人の個人的な事や絶対に知られたくないと思っている事を暴いてしまうのだから無理もない事です。ですから今回もお二人の事を全部視てしまったけれど、自分の口から言う事ができなかったのでしょう。許してあげて下さい。」
 そう言って頭を下げる市に、蘭は慌てた。

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