「あっ!」
「キャッ!……ビックリしたぁ……何よ、突然。」
「いや、悪い。でも急に思い出したんだ。聞いて驚くなよ?」
 そう言って蘭はタメを作る。蝶子は首を傾げた。

 ここは信長が用意させた部屋である。急ごしらえだったからか二枚の布団しかない殺風景な所だった。二人はサルに案内されてついさっきここに来たのだ。
 先程の信長の話が相当ショッキングだったのだろう。蝶子は部屋に着くなり片方の布団に崩れ落ちて、ついさっきまで微動だにしていなかった。
 蘭はそんな蝶子に気を使ってもう一つの布団に座って大人しくしていたのだが、ふと昨日読んだマンガを思い出して大きな声を出したという訳だった。

「な、何よ……早く言いなさいよ。」
 勿体つけて中々言い出さない蘭に痺れを切らした蝶子は、視線を逸らしながら言った。至近距離で見つめられて赤くなる。
「さっき信長が光秀って呼んだ人。覚えてるか?」
「えぇ。あの優しそうな人でしょ?部屋を用意しろって言われて一回出て行った……」
「そう。その人。」
「その人が何?」
「信長の家来で光秀って言ったら明智光秀に決まってんだろ!それにサルって呼ばれてた人は多分豊臣秀吉。信長にそう呼ばれてたってテキストに書いてあったもん。うわ~マジか~!本物見ちゃったぜ。っていうか色々あってそれどころじゃなかったけど、俺ら織田信長と会ったんだよな?話したんだよな?間近で見ちゃったんだよな?うぇ~~……」
 何だかわからないが変な声を出して感動している蘭を蝶子は呆れた顔で見た。

「感動してる場合じゃないでしょ!その信長のせいで私は好きでもないのに結婚させられるのよ?蘭だって家来にならないといけないし……こんな事なら二人共密偵の罪で死刑になった方がましだわ……」
「蝶子……」
 体育座りをして顔を伏せる蝶子を申し訳なさそうな顔で見つめる蘭。

 大好きな戦国時代に来て大好きな織田信長に会ってつい浮かれてしまったけど、今二人が置かれている現実は厳しい。
 タイムマシンは壊れ、帰る術がない。信長に見つかって殺されると思いきや、家来にさせられ、蝶子に至っては結婚を強要されている。逆らえば即処罰されるだろう。だからと言って素直に従うのも嫌である。
 だって蝶子は蘭の事が……

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