「裏山に行ったところ、そこには身元不明の二人組がいただけだそうです。見た限り他からの密偵っていう印象は受けなかったそうですけれど、とにかく信長様に面通ししないといけないという事でここに連れて来ました。」
「ご苦労だった、光秀。」
「いえ。実際に連れて来たのは木下様ですから。」
そう言って光秀――明智光秀は苦笑いした。
一方畳にだらしなく寝そべっていた信長は、難儀そうに起きあがると胡座をかいた。
「では、私はこれで。」
「お前もいろ。」
「え、ですが……」
「構わん。」
信長にそう断言され戸惑っていると、廊下側の障子に人影が現れた。
「サルでございます。」
「入れ。」
音もなく引き戸が開かれ、そこに明らかに無理矢理座らせられた二人組が頭を下げていた。
途端、信長の眉が潜められた。
「何だ、その奇妙な格好は。忍びの者にしては派手だが……」
そう言いながら信長は女の方、すなわち蝶子を上から下まで眺め回した。
蝶子は正座したまま自分のスカートを押さえて赤面する。
「まぁ、よい。入ってこい。顔を見せろ。」
「承知しました。」
サルが返事をすると、蘭達を連れて来た黒づくめの内の二人がそれぞれ蘭と蝶子の腕を取って立たせた。そのまま部屋に連れて行き、まるで投げるように信長の前に置いた。
「さて。……お前らは一体何者だ?」
冷たい響きを持った声がその場の空気を張りつめさせた。
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