「じゃあ私は行きますが、蘭丸君はここで待機していて下さいね。もうすぐ今川の軍が来ます。私が信長殿に合図を送ると織田軍が背後から奇襲をかける手筈になっているので。いいですか?君は絶対に飛び出したりしないでここにいるのですよ。君に何かあったら私の責任になって後でどんな罰が下されるかわかりませんからね。」
 必死の形相で捲し立てる元康に引きながらも、蘭はこくこく頷いた。

 ここはまさしく桶狭間。蘭は元康と共に大高城からここに移動してきた。これからこの場所で歴史的に有名な戦が始まる。その事に変な気分になりながらも、目の前の元康の迫力に押されていた。

(言われなくても飛び出るなんてバカな事しないし!でも……俺の役目は信長を守る事。)

 蘭は改めて気合いを入れると、元康に向かって返事をした。

「はい!大丈夫です!」
「良かった。あ、それと私は家康と改名しました。今川を出たあの日、憎き義元に一方的に貰った『元』がついた名をついに捨てる事が出来た。信長殿に感謝です。」
「そうですか。良かったですね。」
 蘭が心の底からそう言うと、元康改め家康も笑顔を見せた。

「来ました!今川軍の先頭です。では蘭丸君。頼んだよ。」
「はい。」
 隠れていた茂みの隙間から今川軍を確認すると、家康は足早に出て行った。

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