「信長様!!」
「何だ、騒々しい!」
着物を着た人物が大声を上げながら部屋に転がり込んでくる。暇を持て余していた信長と呼ばれた男は、眉間に皺を寄せて怒鳴った。
「も、申し訳ありません!しかし緊急事態でございます!」
「緊急事態?……まぁ座れ。落ちついて話してみろ。」
「はっ!それでは失礼します。」
その人物はそう言うと、その場に膝をついた。
「それで?緊急事態とは何だ?」
「はい。私は先程まで庭の手入れをしていたのですが。突然空が光って、その後に裏の山の方から何かが落ちたような音が聞こえたんです!」
「俺は気づかなかったが。」
「それは殿が屋内にいたからです。私にははっきりと聞こえました。……あ、申し訳ございません!生意気を言いました。」
「あぁ、構わん。頭を上げろ。堅苦しいのは苦手だと言ってるだろ。」
手をヒラヒラさせながらおもむろに立ち上がると、廊下に出て開け放たれた戸の外に視線をやった。
「ふむ。その正体不明の何物かは裏の山に落ちたと言ったな。」
「はい!そうでございます。」
「雷ではないのか?」
「あれは雷などではないです。何か大きな物が落ちたような低い音がしましたので。」
「そうか。……敵陣からの攻撃という可能性は?」
「それは……ない、とは言い切れません。特に信勝様は何をするかわからないところがありますから……」
「ふんっ……!信勝か。確かにあいつなら不意をついて何かしでかすかも知れんな。」
遠慮がちに口に出した『信勝』という名前に、信長と呼ばれた男は急に不機嫌な顔になってそう吐き捨てた。
「信勝にしろ他の誰かにしろ、はたまた自然現象にしろ、早急に確認する必要があるな。お前も頭の中で色々と模索した結果、『緊急事態』だと知らせにきたんだろ?……光秀。」
悪戯っぽい目に見つめられて、光秀と呼ばれた家来は小さく笑った。
「よし、わかった。サルに行かせよう。お前のところの若い衆を5、6人付けてやれ。」
「はっ!」
光秀は無駄のない所作で頭を下げると、そのまま廊下を去っていった。
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