「ふぅん……比叡山、延暦寺か。織田の先祖は代々信心深いと聞いていたが、どこかの馬鹿がその酒を飲んでしまったのかも知れんな。」
 吐き捨てるように言うと袖の下から愛用の扇子を取り出してパチンと音を鳴らした。

(そういえばこの人、自分の力の事凄く嫌ってたっけ……俺余計な事言ったかも。うわっ!どうしよう~……って俺が言いたいのはこんな事じゃなくて!)

「俺が今日ここに来た理由はこの事を言う為だけじゃなくてですね……」
「わかっておる。桶狭間の戦いが起きたら、お前はまず松平元康の兵に紛れる、という事だろう?」
「え……?ってまた見たんですか!?」
「お前もいい加減見抜いたらどうだ?これから視るぞという時や視た後に合図を出してるというのに。」
 若干呆れた表情で見てくる信長だが、蘭には何の事だかわからない。首を傾げていると「まぁよい。」と言われてしまった。

(これから視るぞという合図?……ってどういう事?そんなの出してたか?)

 頭の中でぐるぐるしていると、信長が徐に立ち上がって「サル」と呼んだ。ハッと顔を上げた時には秀吉がいて、何か紙のような物を信長に渡していた。

「何ですか、それ?」
「お待ちかねの物だ。……今川が三日後に尾張に向かって挙兵する。桶狭間で決着をつける時がきた。」
「!!」
「蘭丸。お前の策とやらを話せ。元康の兵に紛れて、どうするつもりだ?」
 信長に凄みのある顔と声で攻められて一瞬怯む。だが蘭は目を見開いて言った。

「義元は『物体取り寄せ』の力を持っています。信長様は以前言いましたよね?お父様が義元と戦っていた時、何処からともなく槍が現れて危険な目にあったと。確かに俺は知っています。桶狭間の戦いを制するのは織田軍であると。でもこの世界では何が起こるかわかりません。桶狭間での休憩中に後ろから奇襲をかければ勝つ可能性はありますが、その瞬間義元が槍を取り寄せたらどうなります?俺は貴方が負けるところは見たくありません。だから俺が元康さんの方にいて義元の動きを見張るんです。……まぁ俺がいたところでどうにかなるとは思いませんけど、元康さんとの連携も取れるので一石二鳥かなぁ、と……」
 最初は息込んでいたのに段々尻すぼみになっていく蘭の様子に、信長は思わず手を叩いて笑った。

「え?」
「お前の熱意はわかった。好きにしろ。」
「え……いいんですか?」
「あぁ。その代わり死ぬなよ。」
「……はい。」
 一瞬面食らった顔をした蘭だったが、すぐに笑顔で頷いた。

 こうして三日後の作戦会議は終了したのであった。

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