「どうですか?見えてます?」
イチの声が市の部屋に響く。蝶子も市もねねでさえ沈黙しているので、イチが不安そうに言った。
「あの……お嬢様?」
「見える!見えるよ、イチ!凄い!流石私!」
「えぇ、良く見えます。帰蝶様の父上様もはっきりと。初めまして、市と申します。帰蝶様には大変良くして頂いております。これでまた一歩近づきましたね。お帰りになられる日まで。」
「わぁ~すごーい!これが未来のお屋敷ですか?何か雑然として薄暗くて怖い感じですけど、帰蝶様のお父様も少し怖いですね。でも嫌いじゃないです。イチさんは驚くくらい綺麗ですね。本当に市様と似ています。あ、タイムマシンというのはそこにある物体ですか?」
ねねが無邪気にそう言って、蝶子の父親の康三の後ろを指差す。康三は流石に怒る気にもならないようで苦笑して頷いた。
蝶子は道具を手に入れてからたった数日でモニターを完成させた。そして今日、初めてその成果を試す事になった。ちょうどイチから連絡があったからだ。
緊張しながら市にモニターを持ってもらってねねとそのモニターを覗き込んだ瞬間、画面にイチと康三が映ったという訳だった。
どうやらイチは腕にモニターを装着しているらしかった。お陰で顔がはっきり見え、外見が変わってない事を確認した蝶子はホッとした。
そして視線をねねが指差した方にやる。そこには五分割くらいに分けられた、タイムマシンの姿があった。
「そうとわかれば早速やりますよ。」
「じゃあよろしくね。ねねちゃん。」
「はい!」
「こっちの二つはまだ未完成だから間違うんじゃないぞ!」
「はーい。」
慌てた様子の康三に軽く返事をすると、ねねは集中し出した。
そして数十分後、完成した方のタイムマシンの一つをねねの『念写』の力で無事に紙に写す事が出来たのだった。
蘭が今川の邸に潜入を開始した日から半年が経った。
義元は未だに蘭が織田の密偵の可能性を疑っているようだったが、『物体取り寄せ』の力は気前よく使わせてくれた。得体の知れない鉄の塊が庭に現れても動じる事なく、むしろ蘭が何を企んでいるのか面白がっているようだった。
不安になって元康に、「全部知られてしまったらどうしよう。殺されるかも知れないですよね?」と言うと、「もしそうなったら戦を始める」と無表情で言われて背筋が凍ったものだ。
だけどとにかく、これまでは事が上手く運んでいるようなので蘭は安心した。
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