「おい!大丈夫か?無理すんなよ?」
「このタイムマシン、飛び立つ前に『560年前の日本へタイムスリップします。』って言ったわよね?」
「あ、あぁ。そういえば……パニクってて忘れてたけど。って、まさか!?」
 蝶子の言葉に蘭が驚いて足を踏み外す。そのせいでバランスを崩して残骸の中で尻餅をついた。
「何やってんのよ、もう!」
「うるせぇ!いて~……」
 再び腰を打ったようで同じ所を擦っている。蝶子は思わず噴き出した。

「あはは!」
「何だよ……笑うなよな。人の不幸を……」
「だって……ふふふっ……」
 しつこく笑い続ける蝶子をしばらく睨んでいた蘭だったが、肩を竦めながら残骸から出て行った。
「あ!待ってよ~…おっとっと……」
 追いかける蝶子だったが自分も足を取られ、バランスを崩しそうになる。『ヤバい!』と目を瞑った瞬間、暖かいものに包まれていた。
「……たくっ!頭はいいくせにドジなんだから。ほら!手貸してやるから行くぞ。」
 蘭に抱きとめられていると気づいた時には自分の手は蘭と繋がれていた。突然の出来事に頭が追いついていかなかったが、ようやく状況を理解した。遅れて自分の顔が真っ赤に染まっていくのを自覚する。繋がれた手もじんじんと燃えているように熱い。
「着いたぞ。」
 素っ気ない声に伏せていた顔を上げると、そこはさっきまで蘭が茫然と立っていた場所だった。

「う、わぁ~……」
 何もない景色に声を失っていると、蘭が言った。
「もしさっきお前が言った通り、タイムマシンが本当に560年前に俺達を連れてきたんだとする。そうなるとあれは本物のタイムマシンだって事になるよな?でも作ったのはあのポンコツだから衝撃に堪えきれなかった、と。」
『あれ』と言って鉄屑を指差す。蝶子は一瞬考えた後、頷いた。
「だったら壊れちまった今、俺達は帰る術を失った事になる。……だよな?」
 不安気な表情の蘭に向かって同じ顔になりながらも顔を縦に振った。
 考えないようにしてきたのにこうして言葉にすると抑え込んでいた不安とか絶望感が胸に広がっていく。
 でも現実を見ないといけないと覚悟を決めて、蘭は顔を上げた。

「蝶子。取り敢えずこの山を降りてみようか。」
「……うん。」

 こうして二人はタイムマシンの残骸を残して、山を降りていった。

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