「そうか。決心がついたか。」
「はい。」
「それでは早速偽の書状を用意する。設定は覚えてるな?」
「織田家の密偵らしき人物に後をつけられていて、さては自分を抹殺しようとしているのではと疑っているんです。なのでどうか匿って欲しい!というやつですね。」
「おい……馬鹿にしてるのか?」
「へっ?あ、いや……滅相もございません!」
 そんなつもりはなかったのだが、信長の鋭い目に見つめられて慌てて両手を振った。

「ふん。まぁよい。……紹介しよう。入れ。」
「?」
 不意に信長が襖の向こうに声をかけた。蘭が首を傾げていると襖が音もなく開き、一人の人物が滑るようにして入ってきた。
伴長信(ともながのぶ)という。甲賀の忍者だ。」
「忍者!?」
 思わず大きい声が出た。信長は怒る事もなくむしろ楽しげな笑みで続けた。
「そうか。未来では忍者は存在せぬか。なるほどな。」
「あの……」
「あぁ。この長信は全部知っている。俺が話した。何せ、ねねが写したタイムマシンの絵を届けたり、未来から届いたタイムマシンを持って帰ったりする役目だからな。忍びの者だけあって余計な事は見ざる言わざる聞かざるだ。安心して使うがいい。」
「はぁ……」
『忍者』なんて映像でしか見た事のない蘭は、長信を茫然と見つめた。しかし当の長信は方膝をついた姿勢でずっと頭を下げている。

「勝家には今川に張りついてお前に何かあった場合助けるという仕事がある。となるともう一人協力者が必要だ。それがこの長信だ。長信、今日からお前の主はこの蘭丸だからな。くれぐれも抜かりのないように。」
「はっ!」
「あ、主って?」
 戸惑い気味に聞くと、『何を言ってるんだ。』という顔をしながら信長は言った。

「お前が命令すればこの長信は忠実に動くという事だ。」
「そ、そうなんですね……あ、よろしくお願いします。」
「…………」
 頭を下げると長信も無言で頭を下げた。
「それでは書状の準備が出来次第、出発してくれ。」
「はい!」

 こうして蘭の任務が始まった。

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