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 明朝、本部長は桜田と私立探偵を呼んで作戦会議を始めた。慎重には慎重を期さなければならないからだ。失敗は許されないのだ。それに枯田陣営に気づかれてはならない。完璧な準備が必要だった。夜遅くまで話し合って骨子をまとめていった。
 それが済むと弟を呼んで行動計画を細部まで詰めていった。漏れがないことを何度も確認し合った。ゴーサインを出したのはその週末だった。
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 グレーの地味なジャケットとパンツ姿の弟がパソコンショップのドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
 オーナーが笑顔で迎えた。その表情に警戒心は浮かんでないように思えた。しかし急いては事を仕損じる。店内を見回してパソコンや周辺機器などを見る振りをしながら、タイミングを見計らった。
「何かお探しですか?」
 声をかけてきたので用件を切り出した。
「実は、合成写真をお願いしたいのですが」
 弟はなんの感情も表さずに告げた。
「どんなお写真でしょう?」
 声は静かだったが、オーナーの顔には明らかに関心を示す表情が浮かんでいた。弟は顔写真を2枚渡して、依頼内容を説明した。
「ほう、スカイツリーのテッペンで逆立ちをしている写真ですか」
 今まで受けたことのない依頼なのか、興味をそそられているような口調だった。
「できますか?」
「ええ、もちろんできますが、どうしてそれを?」
「世界一高い塔の上で逆立ちしたら、どんな気分になるかなって思いましてね」
 自分が高所恐怖症であり、背丈以上の高さに立つとへっぴり腰になって足がすくんでしまうことを身振り手振りで示したあと、「キンタマが縮み上がるんですよ」と自嘲気味に笑った。
 それに釣られて笑みを浮かべたオーナーに、「だからこそ、有りえないことを実現してみたいのです」と依頼理由を説明した。
「なるほど、そういうことですか」
 納得したような顔になったオーナーは、仕上がりの具合と価格について説明を始めた。
「簡単な合成が4千円、ぱっと見では合成とわからないレベルが8千円、玄人でもわからないレベルになると2万円になりますが、どのレベルにいたしましょう?」
「2万円で」
 弟は即決した。
「ほう」
 オーナーは、迷うことなく決断した弟を感心したような目で見つめた。
          
 2日後に出来上がった写真は完璧な仕上がりだった。合成とは思えない、というよりも、実際にスカイツリーのテッペンで逆立ちをしているようなリアル感があった。
 その写真を兄と桜田と探偵に見せた。一枚は満面の笑みを浮かべて逆立ちをしている写真だった。もう一枚は左手だけで逆立ちをして右手で親指を立てるポーズを取っている写真だった。もちろん顔以外は別人のものだったが、目を皿のようにして見ても合成の痕跡を見つけることはできなかった。
「これは凄い!」
 兄が唸った。桜田と私立探偵は息を呑んでいるようだった。すぐさまファックスの写真とその写真を見比べて、目を皿のようにして技術レベルの違いを探した。しかし、違いを見つけることは出来なかった。
「なるほど」
 兄が呟いた。