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 その日の深夜、報道機関各社のFAXが受信を始めた。『桜田春樹の本性に迫る!』と題された2枚の紙がどこからか送られてきた。桜田の人間性を否定し、読んだ人に不快感を与える文言と写真で埋め尽くされていた。
『桜田春樹は「夢開市における未来創造のキーワードは、知恵、心、愛です」と言っていますが、本当に愛のある人間でしょうか? いいえ、彼は一人の女性を不幸のどん底に追いやった〈愛のない人間〉なのです。具体的に説明しましょう。彼は結婚していたにもかかわらず、浮気を繰り返していたのです。写真をご覧ください』
 あられもない行為をしている桜田の破廉恥な写真だった。一つは、若い女性の肩に手を回して暗い夜道を歩く桜田の姿を写したものだった。次は、後ろからの写真で、手が女性の尻を触っていた。その次は、どこかのマンションの非常階段に座ってその女性とキスをしながら片手で胸を触っている写真だった。
『この女性は桜田の妻ではありません。愛人なのです。教師という聖職にありながら、この愛人と浮気を繰り返していたのです。そして、愛人のマンションに入り浸っていました』
 その文章の下に、2人がマンションのエレベーターに乗り込もうとしている写真が載せられていた。
『彼に愛はありません。あるのは性欲だけなのです!』
 その下に、涙を浮かべている女性の写真が印刷されていた。写真の下に桜田の妻という記載があった。
『桜田の奥さんは浮気を止めて欲しいと何度も頼みました。しかし、彼は聞き入れませんでした。それどころか暴力を振るったのです。それも何度も何度も。奥さんはじっと耐えていましたが、ある日、決定的な現場に遭遇して家を出る決断をします。なんと、奥さんが留守にしていた自宅で愛人とセックスをしていたのです。当初の予定よりかなり早く帰宅した奥さんはその衝撃的な光景を目撃して、気絶するように崩れ落ちました』
 衝撃的と記述されている現場の写真はなかったが、苦悩の表情を浮かべた奥さんの写真が載っていた。
『奥さんは離婚を決意しました。そして、離婚届を桜田に突き付けました。すると、桜田はあっさりと同意しました。その場でサインをし、印鑑を押したのです。しかし、慰謝料は一切払わないと突っぱねました。「お前に魅力がないから浮気せざるを得なかったんだ」と、浮気の原因を奥さんに押し付けることまでしたのです。なんという男でしょう! 奥さんは手荷物一つで家を出るしかありませんでした。可哀相に。私たちはこんな桜田を許しません。最低の男、桜田春樹を絶対に許しません!』。そして、一回り大きな文字で結びの言葉が記されていた。『性欲破廉恥家庭内暴力男に夢開市の舵取りを委ねていいのでしょうか?』