◇ 市長選挙 ◇

「このままじゃダメだ!」
 夢開市の将来を案じた桜田(さくらだ)春樹(はるき)は市長選挙に立候補することを決意した。夢開中学校の現役教師である彼は学校の荒廃をなんとかしようと生徒指導に力を入れていたが、どんなに努力してもどうにもならないことに苛立ちを感じていた。そのうち、問題は学校にあるのではなく町全体を覆う閉塞感にあることに気がついた。行政の無策をなんとかしない限り何をやってもダメだと思うようになったのだ。
 東京と埼玉の県境にある夢開市には鉄道が通っていないため、何処へ行くのも不便で、陸の孤島と呼ばれていた。忘れられた街とも呼ばれていた。加えて、20年間無投票で当選してきた現市長、枯田(かれた)冬彦(ふゆひこ)は新しい取り組みを何もしようとしないばかりか、市政を私物化していた。夢開市を発展させるという意識はまったくなく、自分と取り巻きの利益だけを考えていた。だから、それに嫌気がさした人や、愛想をつかした人たちは街から出ていった。そのため、枯田が初当選した20年前の人口は10万人を超えていたが、無為な行政により街の魅力は年々低下し、今年末の人口は5万人を切ることが確実と見られていた。それは、市として存続することが危うくなるということでもあった。