あれから──シッスルに会ってから──数日が経った。
 あの性格最悪な双子の兄弟と香水が酷い臭いのおばさんは、私たちの家に居座るようになった。
 そして、ありとあらゆる嫌がらせを始めた。

 おやつ食べようぜ。
 そう言ってお兄ちゃんの書斎に入って来ては。

 あ、ごめんごめん。

 インクがたっぷり入った瓶を倒した。
 契約書を床にばら蒔いた。
 戸棚の重要な書類を、ポイポイと床に放り投げた。

「やめなさいよ! やめて!」

 お兄ちゃんを虐めるな!
 私は声を張り上げて怒るけれど──おまけにこの前の記憶がせり上ってきて吐きそうになりながら──、お兄ちゃんは片手で私を制した。

「いいんだ。怒ったら負けだよ。じっと、じぃっと耐えるんだ。いいね?」

 お兄ちゃんの意気地無し!
 虫が納まらなかったし、明らかに無理してて、心配で心配でしかたない。

 ……

 おばさん──たしかバーバラとかいう──はもっとひどい。
 食事の時、お兄ちゃんがむせ始めた。

「あらあら、大丈夫?」

 なんて呑気に声をかけてくるけど、ほんとに辛そうだ。

 なにか、おかしい!
 お兄ちゃんが食べていたスープを一口飲んでみる。
 凄まじい苦味と辛味が同時に襲ってきた。

 ──明らかに食べ物の味じゃない!

 とても四歳の舌では耐えきれず、床に吐き出した。

「あらまー、貰いっ子は、やっぱりだめねえ。せっかく作らせた特製スープなのに、床にこぼすなんて」
「あんた……なにいれたのよ……っ!」

 ハウスメイドが慌てて駆け寄る。

「お嬢様、お坊ちゃま、どうされました」
「なんでも……ごほごほ……ない……っ」

 お兄ちゃんは心配をかけまいと手で制すが、危機感を感じたであろうメイドはお兄ちゃんからスプーンを取った。

「お坊ちゃま、失礼します! ……んまあっ、なにこれ! うぅ、ひどい! すぐに下げさせます! お坊ちゃま、お嬢様もこちらへ、お医者を呼んできます」

 もうこのおばさんとは一秒もそばに居たくなかった私は、お兄ちゃんと一緒にハウスメイドに付き従い、そして部屋を出た。
 視線を感じて振り返ると……

 バーバラがにんまりと嗤っていた。