あれから、二ヶ月が経った。
 オレは誰とも組まずに、ひとり、黙々とクエストを続けた。
 中には、別の村へ繋がるイベントが起きるクエストも幾つかある。
 オレらはキークエストって呼んでる。
 大抵の冒険者はある程度経験値が溜まってレベルがあがったら、そういったクエストを受けて村の外に出ていく。
 言わばレベルアップの証だ。

 そして、大概の冒険者は、この村には戻らない。

 売っている武具は青銅製で、一線級の性能には遠く及ばないシロモノばかり。
 売っている魔法も、火、雷、氷と回復の、初期魔法ばかり。
 売っているアイテムも、薬草とその他少しだけ回復する、どれも百ゴルドもしない最低限のものばかり。

 戻ってくるメリットも、この村に留まるメリットも、何も無いのだ。

 見送りをするだけの村。
 生きてるモノホンの村人も、NPC(モブ)も、誰にも省みられずに、ただ見送り続ける日常。

 そんな彼らの力になりたいと思った。

 誰も戻ってこない村の入口で、誰に気にかけられる訳でもなく、ひたすらアザミに水をあげるモブ子。

 そんな彼女の力になりたいと思った。

 ……

 クエストは、村の危機を廃するものだけに絞って受注した。
 二百ゴルドと少し、稼げればいい。
 一番安いチューリップの花束を買える、金額。
(と、安い場末の宿代と食費)

 毎日夕方。
 ギルドに報告して報酬を貰ったら、ソッコーで花屋に立ち寄り、花束を買って、そしてモブ子にあげる。

「まあ! なんてきれいな はなたば! うれしいわ ありがとう ゆうしゃさま」

 オレの負った傷は、どんな重傷でも宿屋で一晩寝りゃ、どんな傷も治る。
 けれど、この赤毛のお下げの女の子の笑顔は、オレに百倍の勇気をもたらす、最高の魔法なのだった。

 大好きだった。

 この子の笑顔が。
 地味な村娘の服が。
 手に持ったジョウロが。
 ゆうしゃさまとオレを呼んでくれることが。
 花束を持って愛おしそうに微笑む、そのほっぺたが。

 ……

「ところであなた、あなたもハンナちゃん攻略派でござるか?」

 人が愛する女の子を微笑みながら見てる時に。
 そいつは、無粋にオレに話しかけてきた。