真っ黒なワンピース。
 ヒマワリみたいな色した黄色いリボン。
 モブじゃねえ──かと言って、プレイヤー(オレたち)とも違う……
 ……何モンだ?

「何モンって。名乗るほどのモノじゃあありませんが。念の為」

 そういうと、仰々しくスカートの裾をあげて膝を曲げた。

アザミ(シッスル)と申します。以後お見知り置きを」
「アザミだぁ?」

 オレは振り返ってあの子を見る。
 足元に咲いている紫の花に、愛おしそうに水をあげている。
 あ。
 目が合っちまった。

「ようこそ はじまりのむら リンクスへ! みてみて このおはな キレイでしょう」
「そうか……」

 お前が大切にしている花は、アザミというのか。

「そう、わたしよ」

 あの子の隣にいつの間に移動したシッスルが、肩に手を乗せ、割り込む。
 でもその子は、蚊が止まったほどにすら気にせず、ジョウロから水をアザミに注ぎ続けている。

「花言葉は、復讐。──ねえ、貴方」

 そしてあの子に寄りかかったまま、オレに問うた。

「復讐、したいんじゃない?」
「……なんで、そんなことを聞く?」
「ふふ。だって貴方……」

 とん。

「うおっ!」

 本日二度目の叫び声をあげたオレの隣に、シッスルなる女は瞬間的に移動して──本当に見えなかった──いたずらっ子っぽく笑った。

(クビになったんでしょ? 勇者様のパーティを)

 ふふふ。
 底知れぬ力を秘めたこの女は、オレにそう耳打ちすると、二歩下がって手を広げた。

「覚えておいでなさいな? 復讐は美味しい前菜(オードブル)。貴方が幸せになるための、美味しい美味しい、ごちそうだよ」

 復讐?
 ごちそう?
 前菜(オードブル)

 ……違う。
 オレが欲しいごちそうは──

「ごちそうは?」
「こ……」

 なぜこんな事を言ったのか、今になってもわからない。

「こ?」

 ただ、この時。

「このっ」
「この?」

 本気で、信じてたんだ。

「この子のっ! 笑顔が見たいっ!」
「……はあ?」

 くるっ。

「ようこそ はじまりのむら リンクスへ! みてみて このおはな キレイでしょう」

「見たいんだ!」

 ただ。
 この時、復讐を選んでおけば良かったと。

 後からオレはひどく後悔するのだった──