「ではこちらもお見せしようか」

 そういうと、別の書類もお見せ下さいました。

 八月度献金額。
 アッカーソン家、千百六十七万ゴルド。
 ルッテンホルム家、九百八十一万ゴルド。

 ……あれ。
 貯水池でもらったよりうんと多い金額を払っています。
 こんな金額、いったいどこから……

「ここを見てご覧」

 ウェントワース家 収支報告書。

「えっ!」

 その名を見たわたくしも母様も、驚きの声を上げてしまいました。

「これは……もしかして父の払ったお金の一部が……」
「その通りだ。ウェントワース家に流れている。それもかなりの金額だ」
「え……じゃあ働いていた人には……」
「あまり行き渡らないだろうな。厳しい工事に、雀の涙ほどの賃金。すると当然? どうなると思う?」
「……手抜き工事……」

 わたくしはハッとします。
 水神の貯水池は……

「そう、だから決壊した。下流の村に流れ込んだ濁流で」
「千六百の村人が犠牲になりました。その責任は、全て父が負いました。イングラム家の没落は、決定的なものになりました」
「父君は、特に西部の民のため、インフラ整備に注力しておられた。それが民への雇用を産むと信じて。だが実際は……」
「ウェントワース家が一部を吸い上げていた」

 だんだん、パズルのピースがはまるようにわたくしの周囲で起こってきた不幸の闇が晴れていきます。

「ああ。私は父上──国王陛下直々に、決壊事件の調査に当たるよう仰せつかった。さっきのメイドも、密偵のひとりだ。さっきのアッカーソン家の当主にも尋問をかけたよ。あっという間に吐いたさ。ウェントワース家との繋がりを。……かの家に行き着いたのが三年前。そして時を同じくして」
「わたくしが婚約破棄を言い渡された」
「その通りだ」