「まー、ほんっとーに、なーんにも無くなっちゃったんですわね」

 玄関から、数年ぶりに聞くきんきん声がしました。
 わたくしは慌てて駆け出して出迎えます。

「ク、クララ。来るなら来るって、言ってくれれば……」
「まー! いやだわリルオード! なあにその売春婦みたいな胸元は!」

 はっ、しまったっ!
 慌てて胸を隠しますが、時すでに遅し、でした。
 となりで、小さなアルフレッド王太子陛下と同じ目をした男の子が見ています。

「ねー、おかあさま。どうしてあのおねえちゃんおっぱいだしてるの」
「まっ、アレン、だめよ! 王家の男の子があんなものを見ちゃいけません!」

 わたくしは真っ赤になって顔から火が出そうです。

「リルオード、だれかきてるの?」
「あ、母様、クララが……」

「あら、まだ生きてたの」

 ……え?

「はーっ。今日はお墓参りに来たつもりだったんだけど、まだ生きてたなんてね」

 ……。
 ことばが……
 ……出てきません。

「……何よ、その目は。……やれやれ、()()()()()()はすぐそうやってタカろうとするんだから。ほら、持ってきなさいよ」

 ちゃりーん。
 クラリッサは金貨を三枚、床に投げました。
 わたくしは……それを()()()()()()()()、一枚ずつ拾いました。
 そうして三枚目を拾おうとした、その時。
 彼女はつかつかと歩いてきました。

「ダメよ。売春婦が物乞いをして王太子妃様から金貨をもらうのですもの。あたくしにそれなりの誠意を見せてもらわないと」

 そしてドレスから片足をわたくしの前に出しました。

「キスなさい。あたくしの……靴に」