「イングラム公爵家子女、リルオード・イングラム! 君との婚約の破棄を、ここに宣言する!」

 アルフレッド・エングルフィールド王太子の唐突な発表を聞いたパーティ真っ只中の人々は、どよめきました。

「陛下は何をおっしゃっておる?」
「リルオードって……あのイングラム家の?」
「婚約の破棄……ってことは、やっぱりイングラム公爵家の没落も時間の問題か……」

 ひそひそ。
 ひそひそ。
 周囲からの温度の無い尖ったことばが、容赦なくわたくしを貫きます。

「あの……陛下……? おっしゃっている意味が……」

 気が遠くなりそうになる意識をなんとかつなぎ止めながら、かろうじて絞り出したわたくしの言葉。
 けれどそれは、陛下のお耳に入りさえしませんでした。

「いいや! 君の声も、言葉も! もはや聞きたくもない!」
「え……」

 どうして?
 どうしてそんなこと仰るの?

 あんなに、好きって言ってくれたじゃないですか。
 たしかに公爵家の栄光は過去のもの。
 最早斜陽の存在。
 でも。

 何を言っている。
 金の話など。
 気にしない。
 気にしないさ。
 それよりほら、いつもの歌声、聞かせてくれ。
 あの声が、好きなんだ──

 ……そう言って笑ってらっしゃった。
 笑ってらっしゃったじゃないですか。
 笑って……

「あたくしが代わりにご説明いたしますわ」

 びくん。
 きんきん甲高いその声は、わたくしの体は否応なしに強ばらせます。

「このウェントワース公爵家子女、クラリッサ・ウェントワースの言葉、ぜひお聞きくださいませ」

 クラリッサ・ウェントワース。
 ひとつ年下十七歳の、ウェントワース家の天才子女。
 可愛いはずだった、妹同然のクララ。
 けれど今は、憎くて憎くてたまりません。
 わたくしの人生は、クララに踏みにじられ続ける、地獄そのものでした。