「みて、おにいちゃん、ゆきがつもったよ! まっしろ!」
「ほんとだね、アリッサ。……君の、肌の色みたいだ」
「えへへ。……もう、おにいちゃんったら!」

 あれから、半年。
 バーバラ達は辺境に追放になった。
 もちろん、爵位も財産も何もかも取り上げられて。
 ウワサによると、親子散り散りになって家もない有様だそうだ。

 私の復讐は──成した。

 今、幸せだ。
 人生でいちばん幸せだ。
 幸い、現世でも私は貰いっ子だ。
 やろうと思えばおにいちゃんと結婚だってできる。
 ほんとにそれをやるか、今それを悩んでいるところ。
 私の恋の煉獄も、意外と心地よいと分かってきたから。

 あ、でも、最近アシュリーさんとお兄ちゃんが仲がいい。
 今回は見逃さないでおこうかな。
 三十二歳年下のお兄ちゃんを、伴侶にする。
 それも悪くない。
 悪くない。

 今、幸せだ。
 間違いなく、幸せだ。
 幸せだ。

 でも。

 ──お兄ちゃんの足は、動かないまま。

 あの箱庭での彼女の言葉が、頭に染み付いて離れない。

『じゃあまず、対価をもらうからね』

 あの日彼女は何を対価にするか、言わなかった。
 半身不随なこと(このこと)が対価だと、言ってはいない。
 だから、不安だ。

 この後、もっと大きな対価を支払わなくてはならないのか、と。

『この世の全ては等価交換。何かの対価無くして何かを得ることは、できない』

 私はいま、幸せだ。
 そのはずだ。


【第一章.完】