「あの……」

 ひとりの若いメイドが、恐る恐る声をかけてきた。

「私、恐ろしいことを聞いたんです」

 そう言うと、青い顔色のまま、私とピエールに語り始めた。

「わたし、アシュリーと申します。ハウスメイドをやっております」

 何度か顔を見たことがある。
 赤毛の、お下げが可愛らしい十代後半くらいの女の子だ。

「この家にある発明家が下宿しているのをご存知ですか」

 アシュリーは私をじっと見て聞いてくる。

「おお、シャルルさんのことかな? 屋敷で給仕をしながら発明の研究をしている……」

 私が首を傾げているとピエールは相槌を打った。

「はい。なんでも、『喋った声を封じ込める』装置を作っているとか」

 ボイスレコーダーのようなものかな。
 生田有沙(三十九)は思った。

「それで、半月ほど前、その装置を置きっぱなしにしてしまったそうです。……スイッチを切り忘れて」

 ……まさか。

「はい、今からそれを皆様のお耳に入れます。どうぞ、お聞きください」

 ……

「ザー……だからね……オーウェン……オリヴァー……ザー……よく……お聞き……この家はね……ザー……お前たちのものにするんだ……ザー……レイモンドは……ザー……階段から……落としてしまえばいい……ザー」

 ザー。

 ノイズと一緒に流れたのは、バーバラの声。
 誰がどう聞いても、さっきまで話していたバーバラの声そのもの。

「……バーバラ・ファーンズワースよ。何か言い残すことはあるかね」

 国王陛下は、冷たい、冷たい声でトドメを刺した。

「あ……ああ……」

 そう言って、バーバラはがっくりと座り込んだ。
 私は、そんな彼女の、蒼白になった顔を両手で掴んだ。

「ああ、おいしかった。とってもおいしいオードブルだったよ」

 そう言って、にっこりと笑った。
 三十九年の人生で、いちばんの、笑顔で。

「ね? シッスル」