「呼んだ?」

 ()()()は、ずっとずっと前から知っている大切な親友の様に笑った。
 それはまるで、待ち合わせよりずっと早く来て待っていてくれたかのように。

「シッスル!」

 私は思わず抱きついて泣いた。
 泣いていいと思った。
 彼女なら、受け止めてくれると思ったから。
 その期待通り、彼女は優しく私を抱きしめた。

「お腹減っちゃったか、ねえ。こんなに憎しみを溜め込んで。頑張った、頑張ったね」

 恐ろしい言葉を紡いでいるはずなのに、私には優しいお姉ちゃんが妹を抱きしめてくれているかのよう。

「今から貴女は幸せになる。その為にはまず、前菜(オードブル)を食べないとねえ。とっても美味しい、憎悪の味の」

 そして、私の前にしゃがみ込んで、頭を撫でた。

「ね? 復讐。しよ?」
「……うん」

 私にはもう……その言葉しか出てこなかった。

「よしよし。よーしよしよし。よく言えました」

 ぱちぱちぱちぱち。
 シッスルはわざとらしく満面の笑みで手を鳴らす。

「じゃあまず、対価をもらうからね」
「た、たいか? そんなのきいてない」
「ちっちっちっ」

 シッスルは人差し指をゆらゆらと左右に振った。
 あくまでも年上を演じていたいようだ──本当に年上かもしれないが。

「この世の全ては等価交換。何かの対価無くして何かを得ることは、できない」
「……わかった。なにをさしだせばいいの?」
「それはわたしが決めること。気にしなくていいのよ」

 にこっ。
 棘の少女は犬歯を見せて笑った。

「ふんふん、()()にしよう、そうだわ、それがいい」
「あれって?」
「内緒」
「ねえ、まさかおにいちゃんの──」
「いいから、いいから。貴女は気にしないの」

 なにか、とても嫌な予感がするのだけれど、彼女は教えてくれない。

「さあ、美味しい美味しい前菜(オードブル)の時間よ!」
「でも、ふくしゅうなんて、どうやって」
「今から貴女に目をあげる」
「……め、って?」
「ふふ。美味しい料理を見抜く目、だよ」

 そう言って、シッスルは右の掌を私の両目に当てた。

「ほら、見える? 醜いものたちが隠す、絶好のごちそうが」
「……うん、みえる……」

 私が応えると、手を離した。
 そして、両肩に手を乗せ、呪文のようにもう一度、繰り返した。

「貴女はこれから幸せになる。この国の、誰よりも幸せになる。いわば最高のご馳走よ。復讐は、その前の前菜(オードブル)だよ。美味しい美味しい、ね?」

 そして、ウインクして私の肩をぽんっ、と優しく叩いた。

「さあ、召し上がれ! わたしの可愛い報復の子よ!」