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 今から46億年前、将来生命を産み出す〈(もと)〉が生まれた。それは、小さな〈(ちり)〉だった。それが1千万年くらいかけて〈地球〉という揺りかごになった。そこに雨が降って〈母なる海〉ができた。海底からは熱水が噴き出していた。そこにはメタンやアンモニウムが豊富に含まれていた。その生命の素になる物質が化学変化を起こし、〈原核(げんかく)生物〉が生まれた。はっきりとした核を持たない〈単細胞生物〉だった。それは、生命が生まれた瞬間だった。わたしたちの祖先が生まれたのだ。その中に酸素を産み出すものが出現した。その酸素を利用して生物は進化を始めた。わたしたちの祖先は核膜(かくまく)を持つ〈真核(しんかく)生物〉になった。その時の大きさは僅か数ミリだったが、そこへ辿り着くまでに13億年という気の遠くなるような長い時間が必要だった。そして更に10億年後、わたしたちの祖先はやっと〈多細胞生物〉になった。最初の生命誕生から23億年が経っていた。それから更に10億年後、海の中で生命の大爆発が起こった。〈カンブリア爆発〉だ。一気に生物の種類が増えた。その中から〈魚類〉が誕生した。彼らは〈背骨〉を有した〈脊椎(せきつい)動物〉だった。わたしたちの祖先は〈ナメクジウオ〉に姿を変えていた。その後、〈(あご)〉を獲得することによって繁栄の切符を手にすることになった。海の王者として君臨するようになったのだ。
 場面が陸に変わった。24億年前、海の中で飽和状態になった酸素は海面から空気中へと放出され始めた。そして呼吸に必要な酸素が徐々に増えていった。すると、それが上空に溜まって〈オゾン層〉となり、太陽からの紫外線をブロックするようになった。生物が生きていくための住みやすい環境が整ったのだ。生物はこのチャンスを逃さなかった。海を出て上陸を始めたのだ。先ず、植物が4億5千万年前に、それを追うようにして昆虫が、そして、魚のヒレが足に進化した両生類が3億9千万年前に上陸を始めた。それは、わたしたちの祖先が肺呼吸を始めた瞬間だった。その後、爬虫類(はちゅうるい)に似た〈単弓類(たんきゅうるい)〉を経て〈哺乳類(ほにゅうるい)〉になったのが2億年前だった。わたしたちの祖先は〈胎生(たいせい)〉を獲得したのだ。〈有胎盤類(ゆうたいばんるい)〉としてお腹の中で胎児を育てる能力を持ったのだ。しかし、その時代に生きていくのは大変だった。恐ろしい〈肉食恐竜〉がいたからだ。ティラノサウルスに見つからないように葉陰や小穴で怯えながらやり過ごすしかなかった。ネズミのような外見をしたわたしたちの祖先は体長が10センチほどしかなかったから、肉食恐竜に見つかったらひとたまりもなかった。だから、彼らが寝静まる夜間にこそこそと活動するしかなかった。
 しかし、状況が一変する出来事が突然起こった。小惑星の衝突だ。6千6百万年前、直径10キロの小惑星が地球に激突したのだ。場所はメキシコのユカタン半島だった。そのエネルギーは広島に落ちた原爆の10億倍だった。一瞬にして気候が変動し、地球に厳冬の時代がやって来た。衝突して巻き上がった粉塵(ふんじん)が空を覆い、太陽光を遮ったのだ。それによって光合成ができなくなった植物は枯れていった。植物を餌にしていた動物も死んでいった。餌になる草食動物がいなくなった地上で肉食恐竜が生き延びる術はなかった。恐竜は絶滅した。
 そのことによってわたしたち祖先に大きな変化が訪れた。千載一遇のチャンスが巡ってきたのだ。それまで恐竜が独占していた空間や食物を我が物とすることができるようになったのだ。更に、日中に活動することもできるようになった。その結果、急速に多様化した哺乳類が陸の王者へと上り詰めていった。その中で、わたしたちの祖先は霊長類(れいちょうるい)に進化した。6千万年前のことだ。それが、3千万年前に真猿類(しんえんるい)に進化し、類人猿(るいじんえん)を経て、700万年前に人類になった。そして、250万年前にヒト属となり、25万年前にヒトになった。