わたし 

 なんかバタバタしているみたい。ママが大変なのかな? ちょっと心配。
 あれっ? これって車の音かしら? もしかして病院へ行くの? 
 ということは……大変だ~、生まれる準備を急がなくっちゃ。と思っていたら、自分の体から副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンが分泌されてきたわ。それがどんどんどんどん増えているの。ママの体にある下垂体(かすいたい)を刺激してオキシトシンというホルモンを分泌させているのよ。子宮を収縮させるためなの。
 何故かって? 
 それはね、子宮を小さくしてわたしを産道へ押し出してもらわなければならないからなの。いつまでも子宮にいるわけにはいかないからね。
 もちろんわたしも頑張っているわ。頭をぐりぐりして産道を広げているのよ。子宮が収縮する中をぐりぐりするのって大変なんだけど、もっと広がってくれないと動きにくいからわたし必死なの。
 あっ、骨盤がゆっくりとだけど柔らかく動いて広がってきたわ。ママも応援してくれているのね。一心同体っていう言葉が頭に浮かんできて、なんかウルウルしてきちゃった。でもね、その余韻に浸っている余裕はないの。産道を進みやすくするために姿勢を変えなければならないのよ。ここからが大事なところなの。顎を胸にピッタリと付けて、頭の一番小さな部分を先端に向けるのよ。それから頭の骨を重ねて頭全体を小さくしていくの。狭い産道を通り抜けるためよ。産道のカーブに合わせて動きやすくするためでもあるの。
 どうしてかって? 
 だって産道の入口は横長なのに出口は縦長だから、回転しながら進むしかないのよ。頭が大きかったらスムーズには動けないから、できるだけ小さくしなければならないの。わかった?
 あらっ、子宮がキュッキュッって締まり始めたわ。10分に1回だった収縮が8分に1回になってきた。と思ったら、5分に1回になっている。どんどん早くなってきたわ。それに合わせてわたしの体はどんどん押し出されているの。産道を出口に向かって進んでいるのよ。もうすぐだわ。わたしも頑張るからママも頑張ってね!