偵察魂 

 痛い!
 考子はお腹に痛みを感じた。
「どうしたの?」
 シャワーを浴びてさっぱりし、怒りも収まって寛いでいた新が心配そうに覗き込んだ。
「なんか、思い切り蹴られたみたい」
 考子は顔をしかめてお腹に手をやった。
「それは、もしかしたら胎児が出産準備に入ったのかもしれないね」
「えっ、お腹の中の赤ちゃんが出産準備をするの?」
「そうだよ。子宮の中で頭を上にした姿勢でいた胎児はお産の時には頭を下にしなけりゃいけないから、ぐるんと向きを変えるんだよ」
「へ~、そうなんだ~」
「逆子で出産となると大変だからね。産道は広がりにくいし、陣痛は弱いし、お産に時間がかかりすぎることが多いから、帝王切開をしなきゃいけないことになるんだ。だから逆子だと君にも胎児にも大変な負担になってしまうんだよ。悪い条件が重なると、胎児の命が危険にさらされることだってあるんだ」
 新の説明を聞いて考子は怖くなった。逆子出産を想像して顔が青ざめた。そんな彼女の表情の変化を見た新は、彼女を落ち着かせるように穏やかな声を出した。
「でも、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。出産時に逆子(さかご)になる確率は3パーセントから4パーセントと言われているからね。ほとんどの場合は頭位(とうい)と言って、頭が下向きの状態になっているんだ」
 彼の説明を聞いて少し安心した考子だったが、不意に赤ちゃんを励ましたくなった。だからお腹に向かって力強く語りかけた。
「思い切り蹴ってもいいから、頑張って頭位になってね」