偵察魂 

 産婦人科で体重増加の危険性をやんわりと注意された考子はエクササイズに励みながら食べ過ぎないように気を付けていたが、量だけでなく質についても真剣に考えないといけないと思い始めた。自分の食事は胎児の食事と同じだからだ。そのことを話すと、新はすぐにアドバイスをくれた。
「そうだな~、先ずは規則正しい食事。そして、栄養バランスの良い食事かな」
「それって、1日3回きちんと食べることと、好き嫌いせずになんでも食べることよね」
「そうだね。つわりの時は規則正しい時間に食べるのが難しかったし、つわりが終わったあとは、その反動で欲するままに食べていたと思うけど、そろそろ、朝・昼・晩と1日3食、規則正しく適量を食べるようにしなければいけないね。それと、肉や魚や卵に加えて野菜や海藻をバランスよく食べることも大切なんだ。母体の栄養イコール胎児の栄養だからね」
「わかった。努力するわ。で、他に気をつけることはある?」
「そうだな~、う~ん、塩分や糖分の取り過ぎに気をつけることかな。妊娠高血圧症や妊娠糖尿病などの危険を防ぐために必要だし、生まれたあとの離乳食は薄味にした方がいいから、君も今からそれに慣れておいた方がいいね」
「そうね、どちらかというと濃い味が好きだけど、今日から塩分や糖分を控えめにして調理してみるわ」
「そうだね。僕も濃い味の方が好きだけど、今から薄味に慣れるようにするよ。それから他に気をつけたほうがいいのは……、そうだ、ジュースや果物の摂り過ぎに注意することかな」
「えっ、ジュースや果物がダメなの?」
「いや、そうじゃないんだけど、ジュースや果物は糖分やカロリーが結構高いから摂り過ぎには注意してもらいたいんだ。だから、ジュースや果物を食べたくなったら朝食べるといいと思うよ。摂取した糖分やカロリーを日中に消化できるからね」
「なるほどね」
「ちょっと大変そうに思うかもしれないけど、食べ過ぎや運動不足で肥満体になる妊婦さんも多いから、そうならないようにした方がいいんだよ。健康体を維持するためと思えば前向きに挑戦できるんじゃないかな」
「うん。頑張ってみる。ありがとう。これからもアドバイスをお願いね」
 この日の会話をきっかけに、考子は色々な本を読んで、食事についての勉強を本格的に始めた。そして、積極的に食べたらいいものを選んでいった。
「赤ちゃんの歯や骨のためにはカルシウムが大切よね。牛乳、チーズ、ヨーグルト、それに、ちりめんじゃこや納豆もいいらしいから毎日食べるようにしようっと。それから、妊娠中は便秘になりやすいみたいだから、食物繊維を多く摂った方がいいわよね。玄米ご飯でしょ、ゴボウでしょ。サツマイモでしょ、コンニャクでしょ、それから、レンコンやキノコもいいって書いてあるわ。頑張って食べよう。そして……、鉄分が必要なのか。それには牛肉の赤身やいわし、あさり、煮干し、ひじき、ほうれん草、小松菜がいいって書いてあるから、これもバランスよく食べなきゃね。あとは……、葉酸? なになに? ビタミンBの一種なんだ。赤ちゃんの発育や血液の生産に必要って書いてある。ふ~ん。じゃあ、これも意識して食べなきゃね。ほうれん草に、ブロッコリー、さつまいも、バナナ、イチゴね」
 考子は一人でブツブツ言いながらメモを取って、冷蔵庫の中身を確認して、エコバッグを手に持って、ペッタンコの靴を履いて、足取り軽やかにスーパーマーケットへ向かった。外は春の陽気が満ち満ちていた。