考えれば当たり前のことだった。むしろ何故今まで気付かなかったのか自分でもわからない。

 俺は、葉月のことが好きだ。

 だから、葉月のことが知りたかった。
 だから、葉月の予言を現実にしたかった。
 だから、葉月に格好良く思われたかった。
 だから、葉月ともっと近づきたかった。
 だから、葉月の願いを叶えたいと思った。
 
 俺の行動も感情も全て、だからの先に繋がっていく。それが自然で、当然の答えであると心が納得していた。

「……飛鳥?」
「え? あ、あぁ……えっと」

 じゃあ、どうやってそれを葉月に伝える?
 今この場で? 今気付きました感満載の状態で? でも俺の葉月への思いはそんなに簡単なものじゃない。
 小学生の頃からずっと心に絡まっていたはずのその思いは、今気付いたからと簡単に葉月に告げられる様なものじゃない。

「……ねぇ飛鳥」
「……うん?」
「実はこの後行きたい所があるんだけど」
「あ、うん。どこ?」
「大学の側の河川敷」
「わかった、行こう……えぇ? か、河川敷?」

 何かの聞き間違いかと聞き返す俺の目に、にっこり笑った葉月の笑顔が飛び込んできた。突然のその提案に頭の中がちかちかして思考がままならないでいると、「ねぇ、覚えてる?」と葉月が俺に訊ねる。

「子供の時さ、河川敷で一緒に予言考えてたよね」
「……“秘密基地を見つける”」
「そうそう! 漫画で見る様なちょうど良い空き地なんて全然なくてさ、結局河川敷の高架下を私達の場所に認定したんだよね!」

「懐かしいな〜」と当時を思い返している様子で頬杖をつく葉月。つられる様に俺の頭の中にも当時の俺達が浮かび上がる。河川敷の高架下で陰に隠れる様にこっそり二人で並んで座ると、葉月の取り出した予言日記を覗き込む様にして確認していた。そこはまるで二人だけの世界だった。

「大学の近くにもあるんだよ、河川敷。知ってた?」
「……うん。俺もたまに散歩しながら懐かしいなって思ってたから」

 今でもそこを通る度に俺達の面影が見える様だったから。つい暇を持て余したり、落ち込むことがあった時には足を運んでいた。

「今から行かない? ここから一時間しないし」
「良いけど……まだ真昼間だから結構暑いよ?」
「高架下なら陰で涼しいよ。ね? そうだったじゃん」
「……うん。まぁ、そうかも」

「じゃあ決まり!」という葉月の明るい声で俺達はレストランを出て、真っ青な夏空の下、河川敷へと向かうこととなった。
 電車に乗って大学の最寄り駅で降りると、葉月が道案内をする様に俺の手を引き目的地まで連れて行く。俺達は、いつもそうだった。考え事をして立ち止まっている俺を、葉月はいつも笑顔で前へ引っ張っていってくれる。


『——安心して考え事してて良いよ』

 そう言って俺の手を引く葉月はいつも、俺の考え事を邪魔しない様に答えがまとまるまで黙って静かにしてくれていた。葉月はお喋りが大好きなのに。

『嫌じゃないの?』
『何が?』
『待ってる間。つまんないだろうなって思うんだけど……』
『全然! わくわくしてる! だって飛鳥の答えが聞けるから!』


 ——そうか。葉月は俺の答えを待ってるんだ。

 大人になった葉月が今、あの頃の様に黙って俺の手を引き目的地へと導いている。あの頃と全く同じ状況に、さすがの俺にも葉月の気持ちが伝わった。
 葉月は今、俺が飲み込んだ言葉を彼女に伝える為の時間を作っている。きっと俺は言葉にするのだと信じて。
 俺の思いは今気付いたからと簡単に告げられる様なものじゃない。先程のそう感じた心は間違っていないと思うけど、でも今わかる範囲だけでも、今伝えられる部分だけでも伝えることが出来たなら、きっと葉月は喜んでくれるだろう。だって昔から葉月はそうだったから。

 葉月が、俺を待っている。