「おもしろかった…」
俺は、きこさんに本を借りて三日で、「ヨウコとタケコ」を読み終えてしまった。
あっさりとした出来事に、ヨウコとタケコのどろどろとした複雑な思いが混ざって、あっという間に読者は惹かれてしまう。
けれど、最終的には、そんな思いよりも、二人の楽観的な思考が勝ってしまう。そしてまた、ほのぼのとした日常が戻る。
この沼は、このループは、確かにすごくクセになる。
読み終えてしまったし、特にやることもないので、まだ一週間経っていないけれど、本屋へ行くことにした。
今日は何か買って帰ろうと思い、トートバッグを肩に提げて、自転車をこいだ。
日陰に置いてあった自転車は、こいでいるうちに、どんどんと熱を吸収していった。
「あれ?そうまくん、こんにちは。今日は普通に本買いに来たの?」
今日はきこさんの方から声を掛けてくれて、なんとなく、少しだけ、嬉しかった。
「こんにちは。はい、本買いに来ました。だけど、実は『ヨウコとタケコ』読み終わっちゃって」
「えー!?は、早くない!?まぁ、とりあえず本買って、後で話そう!私、今日ちょうど午後から上がるからさ。どこか行って話そっか」
話し終えると、俺は本棚を見上げた。今日はなんだか爽やかな小説が読みたい気分だったので、表紙の色が綺麗な本を買った。
パティシエを目指す男子中学生が、唯一自分を認めてくれた同級生の女の子に、小さなケーキを作る青春ストーリー。
きこさんが貸してくれた「ヨウコとタケコ」を読んで、普段読まないタイプの小説にも挑戦しようと思えた。
「よーし、そうまくん。私あと一時間は大丈夫だけど、どうする?どこ行って話す?」
きこさんがお洒落な私服になり、あ、大人になったんだな、と、不思議なことを思ってしまった。
きこさんとは小さい頃、よく河川敷で遊んでたっけ。
「…河川敷とか、どうですか。今日は少し風もあるし、いつもより少しは涼しいんじゃないかと」
「懐かしい!よく遊んでたよね。いいね、散歩がてら行こう!」
覚えてくれてたんだ。
覚えてたの、俺だけじゃなかったんだ。
きこさんが微笑むと、俺も微笑んでしまった。なんだか、少し嬉しくて。
自販機で水を買うのも、なぜか楽しかった。
「散歩がてらって言ったけど…。俺、ここに自転車置いていくことになって心配なんですよね」
「え、待って、まさか…」
「ほらきこさん、後ろ乗って」
「えー!?無理、怖い怖い!捕まっちゃうって、あー!」
「よく友達乗っけてるんで大丈夫ですよ」
「そうまくん、こういう時私より大人っぽくなるのやめて!!」
怖い、無理、と連呼するきこさんが面白くて、笑いながら河川敷まで半分ほどの距離まで走った。さすがにきこさんがかわいそうだったから。
そんなきこさんも笑っていて、なんだか、昔を思い出した。
「そうだ。そうまくん、お昼ご飯大丈夫?私は後で食べるんだけど…」
「大丈夫です。一時間くらいなら平気なので」
「そっか。よかった」
自転車を押して歩き始めて間もなく、もうお昼なのかと知った。