夏休みに入った。
暑さは日に日に増していき、外に出る気が失せる。
俺は、きこさんに貸してもらった本を、順調に読み進めていた。
「…ん?」
ある日の夜、ページをめくった時、何かひらひらと、一枚の紙が落ちた。
拾って見てみると、それはメモのようだった。
「おすすめメモ…?」
おすすめメモ、と書かれた下に、ずらりと長文が並んでいる。まさか、昨日あの短時間で、これを書いたのだろうか。すごすぎる。
『これは、藤月のミステリー小説です!ただのミステリー小説じゃなくて、たくさんの仕掛けがあります。そうまくんはわかるかな?私は何度も読み返してそういったものを見つけたいタイプなので、五回くらい読んでわかったものもあったよ!暇だったら逆から読んでみてね。藤月の作品の中では、少し難しいかもしれません。次の水曜日に話そう!』
これでようやく、全体の二割ほど。
どうしてこんなに書けるのか、不思議でならない。
けれど、読んでいると、確かに同じ推測をしている場面もあれば、逆の推測をしている場面もあって、すごくおもしろい。
水曜日にたくさん話せるといいな。お互いの考察も、良かったと思った場面についても。
「蒼真ー、十二時には寝るようにしてよー?遅くとも三十分には絶対だからねー?」
お母さんの大きな声が一階から聞こえ、
「わかってるー」
と、いつも通りの返事をした。
翌朝、カーテンを開けると、眩しい日差しが部屋に入り込んできた。
エアコン無しではいられないような危険な暑さに、朝から負けそうだった。
ふとスマホを見ると、陽太からいくつか、メッセージが来ていた。
『今日空いてる?』
これだけか、と思いつつも、
『空きすぎてて暇』
と送った。すぐに既読がつく。
『モール行かん?』
『いいよ。何時集合にする?』
『昼食べてからでもいい?』
『うん。じゃあ二時とか?』
短い会話が続く。
『おっけー。場所いつものとこでよろ』
『はーい』
こんな風に、俺たちは暇な時、近所のモールに行くことが多い。あっさりとした会話が、俺たちにはちょうどよかった。
階段を降りて、リビングの戸を開けると、涼しい風がすっと俺の身体に染みた。
「おはよ。あの、お母さん」
「おはよう。何?」
「俺、昼過ぎにモール行ってくるから、夜ご飯なんか買ってくるよ」
大体モールに行くときは、お母さんの負担を軽減させるため、家族のお弁当などを買って来ることがほとんどだ。陽太もそうしている。
「いいの?ごめんね。明日はちゃんと作るからね。夏休み入ったばっかりなのに…」
お母さんは、飲食店でパートで働いているものの、家事を全部やってくれている。お父さんは、バリバリのサラリーマンなので、両親は常に忙しい。
「お父さんの分も買って来るけど、いつものでいいかな?」
「いいと思うよ。私もいつもので平気!あ、でももしお蕎麦があったらそっち!」
できれば俺も手伝いたいものなのだが、俺は家事全般が壊滅的にダメなので、これくらいしかできない。
「わかった。買って来るね」
そう言って、俺は洗面台に向かった。
暑さは日に日に増していき、外に出る気が失せる。
俺は、きこさんに貸してもらった本を、順調に読み進めていた。
「…ん?」
ある日の夜、ページをめくった時、何かひらひらと、一枚の紙が落ちた。
拾って見てみると、それはメモのようだった。
「おすすめメモ…?」
おすすめメモ、と書かれた下に、ずらりと長文が並んでいる。まさか、昨日あの短時間で、これを書いたのだろうか。すごすぎる。
『これは、藤月のミステリー小説です!ただのミステリー小説じゃなくて、たくさんの仕掛けがあります。そうまくんはわかるかな?私は何度も読み返してそういったものを見つけたいタイプなので、五回くらい読んでわかったものもあったよ!暇だったら逆から読んでみてね。藤月の作品の中では、少し難しいかもしれません。次の水曜日に話そう!』
これでようやく、全体の二割ほど。
どうしてこんなに書けるのか、不思議でならない。
けれど、読んでいると、確かに同じ推測をしている場面もあれば、逆の推測をしている場面もあって、すごくおもしろい。
水曜日にたくさん話せるといいな。お互いの考察も、良かったと思った場面についても。
「蒼真ー、十二時には寝るようにしてよー?遅くとも三十分には絶対だからねー?」
お母さんの大きな声が一階から聞こえ、
「わかってるー」
と、いつも通りの返事をした。
翌朝、カーテンを開けると、眩しい日差しが部屋に入り込んできた。
エアコン無しではいられないような危険な暑さに、朝から負けそうだった。
ふとスマホを見ると、陽太からいくつか、メッセージが来ていた。
『今日空いてる?』
これだけか、と思いつつも、
『空きすぎてて暇』
と送った。すぐに既読がつく。
『モール行かん?』
『いいよ。何時集合にする?』
『昼食べてからでもいい?』
『うん。じゃあ二時とか?』
短い会話が続く。
『おっけー。場所いつものとこでよろ』
『はーい』
こんな風に、俺たちは暇な時、近所のモールに行くことが多い。あっさりとした会話が、俺たちにはちょうどよかった。
階段を降りて、リビングの戸を開けると、涼しい風がすっと俺の身体に染みた。
「おはよ。あの、お母さん」
「おはよう。何?」
「俺、昼過ぎにモール行ってくるから、夜ご飯なんか買ってくるよ」
大体モールに行くときは、お母さんの負担を軽減させるため、家族のお弁当などを買って来ることがほとんどだ。陽太もそうしている。
「いいの?ごめんね。明日はちゃんと作るからね。夏休み入ったばっかりなのに…」
お母さんは、飲食店でパートで働いているものの、家事を全部やってくれている。お父さんは、バリバリのサラリーマンなので、両親は常に忙しい。
「お父さんの分も買って来るけど、いつものでいいかな?」
「いいと思うよ。私もいつもので平気!あ、でももしお蕎麦があったらそっち!」
できれば俺も手伝いたいものなのだが、俺は家事全般が壊滅的にダメなので、これくらいしかできない。
「わかった。買って来るね」
そう言って、俺は洗面台に向かった。