三年前、私は幼馴染とバイト先の本屋で再会してから、夏を共に過ごした。そんな記憶がある。
そうま、という名前の幼馴染は、私の三つ年下で、信じられないほどかっこよかった。こんな私が話してていいのかなってくらい。
そんなそうまくんと、また会えた時は話そうと言った約束のようなものは、まだ果たされていなかった。
私は少しだけ、期待をしていたのかもしれない。何かを。
「どうしようかなぁ、これら」
一人暮らしの家とは思えないほどの本の量は、さすがに友達を家に招くには気が引けるので、断捨離をしようとしていた今。
そうまくんに本を貸していた時期があったことを思い出した。
断捨離は苦手だ。特に本にはどれも素晴らしい想いがこめられている。
そうまくんに貸した本だってあるのに、捨てられるものだろうか。
「ピンポーン」
部屋にインターホンの電子音が鳴り響く。遮断された思考の破片が、ドタバタと玄関へ向かう足音に混ざる。
「はい」
『あ、宅配便でーす』
「はーい」
…どう見ても、格好が配達員さんではない。
大学の友達がふざけて来たのかな。忙しいし、今はやめてほしい。
ガチャ、とドアを開けた時だった。
「久しぶり」
そうまくんの、少し意地悪っぽい笑顔が見えたのは。
「…え、え!?そうまくん、ちょっと、なんでここに来れたの!?久しぶりって、え!?」
「ふはっ!きこさん、焦りすぎでしょ。きこさんのお母さんに、どこのアパート住んでるのか訊いたんですよ。そしたらここって言ったから」
「え、そうなの?いやいや、そうまくん、まさか大学…」
「それはさすがに同じとこじゃないですよ」
そうまくんは、変わらぬ笑みを浮かべて、私に一冊の本を渡してきた。
「この本、返さないといけないんでしょ?」
そうまくんは、前よりももっと背が高くなっていた。私を余裕で越してしまっている。
前よりも敬語が少なくなっているのも、大きくなったことを実感させる。
「うん、そうだったね」
「俺しっかり読みましたよ?まさかきこさんの方が忘れてたりしないよね?」
「ふふっ。随分と強気なようで。じゃあ、語り合おうよ。思う存分、本語りしよう!」
ついでに、断捨離を手伝ってもらおうかな。
友達には断捨離中の家なんて見せ難いけれど、幼馴染ならいい気がする。
なんだか、あの時そうまくんに、あんな順番で本を渡さなければよかったかもしれない。
頭文字を並べると、「さようなら」になる順番で。
だってまた、そうまくんはこうやって私を追いかけて、いつも共に走ってくれるから。
そうまくんが、私の家の中に入る。
ドアを閉めるのが惜しいほど、透き通った群青の空だった。
視界が、麗しく揺らいだ。