澄み切った夏の青い空。煕は、また川沿いの高架下で璃乃と待ち合わせした。
川のせせらぎを聴きながら、璃乃と話すのが楽しみだった。
今日はどんな話で盛り上がろうか。

自転車で堤防を走りぬけると、頬に風が打つ。
目的地に着いて、ショルダーバックから図書館から借りた本を取り出す。
今日の本は、璃乃も好きなホラーミステリーの話だ。この話を教えてあげれば、背筋が凍るくらい涼しくなるだろうかと想像する。
鼻歌を歌いながら、階段に座って読み始める。

数分もしないうちに、璃乃が隣に座る。

「煕くん。今日は何の本読んでいるの?」
「え? ちょっと早いんだけど。まだ5ぺージしか読んでないから何も始まってない」
「まだ読んでないから……私も隣で読んじゃおっかな」
「何読むの?」
「さっくんが出てる雑誌。最近発売されてね。表紙飾ってるんだ!」
「あースノーマンの。……なんで、俺の隣で読むの」
「……煕くんが一番だけど、推しアイドルもやめられないよ」
 煕は頬を膨らませながら、璃乃の隣でホラーミステリーの本を読み進める。笑顔で鼻歌を歌う璃乃を横目に反対する理由も見つからなかった。

「本読んだらさ、新しくできたカフェに行こうよ。シャインマスカットのパフェが美味しいんだってさ」
「……ふーん。いいよ。煕くんのおごりね」
「コンビニバイトしてるけどさ。俺がおごるの?」
「私、彼氏におごられるのが夢なの」
「それ、前にも聞いた」
「いいじゃん。別に」
 舌をぺろっと出して、不機嫌になる璃乃を見て、煕はなぜかほほえましくなった。


 川のせせらぎの音を聴きながら、彼女の隣は心地よかった。
 これからもずっと一緒にいたい。
 顔を緩みながら、今の空間を大事にしようと決心した煕だった。

 空では大きなひつじ雲がたくさんできていた。璃乃と見る空はとても綺麗だった。