図書館の出入り口付近で3人は立ち止まる。
璃乃と並んで煕が横に立っていると顔を見合わせたのは大学でテニスサークルが一緒の坂本斗煌が通り過ぎた。

「あ……」
「璃乃さん。地元ってこの辺だったのかな」
「うん、坂本くんもこの辺なんだね」
 煕は首をかしげて、璃乃を見る。

「あ、ごめんね。大学のサークルで一緒の坂本斗煌くんだよ。こっちは地元の高校に通う幸田煕くん」
「どうも。坂本です」
「あ、どうも。煕です」
「……えーっと、友達?」
 
 斗煌は、何となく察していたが、璃乃に聞いてみた。

「あー……」
 
 恥ずかしくなって顔が赤くなる。

「彼女です」
「あ、そうなんだ」
 目を大きく見開いて驚く斗煌だった。自信満々の様子の煕にちょっと後退する。

「煕くん……」
 想像以上に大きな声で言ったため、さらに恥ずかしくなる璃乃だった。煕のシャツの裾を引っ張った。

「あ、ごめん。思わず、声が響いたね」

 自然の流れで煕は璃乃の手をぎゅっと握った。その行動に斗煌は、ささっと手を振って立ち去った。2人の間に入る余地はないなと感じた。璃乃は何だか申し訳ない気持ちになったが、そのまま立ち止まった。

「んじゃ、行こう」
「う、うん」
「璃乃さん、聞いていい?」
「え?」
「さっきの坂本先輩って、どういう関係?」
「え、あー。テニスサークルが一緒ってだけだよ。別にそれ以上の関係性はないかな」
「……ふーん。なんか、モテそうな人だよね」
「え? なんでわかるの?」
「男の俺でもなんかオーラっていうかそういうの感じる」
「ま、まさか惚れたの?」
「そんな、まさか。どんな想像?」
「流行りのBLかと」
「ちょ、ちょっと本の読みすぎだよ。俺はノーマルだって」
「嘘、煕くんそういうの知ってるの?」
「わかるよ。それくらいなら……深くは知らないけど」
 くすっと笑う璃乃に照れる煕。少し困った顔をした。

「煕くん可愛い」
 つんと頬に指をさす。その指をつかんでよけた。

「いやいや、今言うことじゃないし」
「いいじゃん。別に」
 いちゃいちゃカップルが図書館の出入り口でじゃれ合っている。騒がしくて眼鏡をかけた司書の人がじっと見ていた。

「……すいません」

 璃乃はぺこりをお辞儀をして、その場から逃げるように2人で立ち去った。近くでは静かにお願いしますの文字が書かれたポスターがあった。逃げてきた璃乃はそれがだんだん面白くなってきた。普段、1人で来る図書館でまさかデートできるとは考えてもいなかったからだ。後ろを向いては、じっと煕を見て、笑顔を振りまいた。

「何?」
「ううん。なんでもない」

 璃乃は、顔が緩んで元の顔に戻せなくなる。煕は頬を赤くして、璃乃の後を追いかけた。周りもうらやむくらいのデートに背中に羽根が生えたように嬉しくなった。