夏休みに入り、学校は部活に専念する生徒たちで活気だっていた。
これからサッカーの部室に入ろうと、煕はバックを肩に背負い、スマホをポチポチといじっていると、後ろから何かがあたった。

「ひ、ひかるくーん」

 頭にフェイスタオルかけたのは後藤修哉(ごとうしゅうや)だった。同じサッカー部でもある。腐れ縁だ。
「ちょっと、何してんだよ」
「こっちのセリフだわ。スマホばかり見て、俺が近くにいるの知らなかっただろ」
「……スマホが友達だ」
「ちゃうだろ。それを言うならボールが友達だろ」
「……そうとも言う」
「そうしか言わないわ。ていうか、修哉も友達だろ?」
 修哉が煕の手に肩にかける。煙たそうな目にじっと見る。

「じーーー」
 スマホの画面を見ると、次のデートの約束と璃乃としていた。修哉は璃乃の名前を見る。

「璃乃? えーもしかして彼女?」
「……さてと!! サッカーの準備しないとなぁ」
 煕は修哉の質問には完全なるスルーして、部室の中に入った。

「俺にプライベートの話を聞かせてくれないのかい? 煕くん」
「修哉、パス練習するぞ」
 部室の中、制服からユニホームに着替えた煕は修哉に声をかける。全然彼女の話ではないが、声をかけてくれたことがものすごく嬉しかった修哉はご機嫌になる。煕も鼻歌がとまらない。璃乃とのデートの約束が楽しみになってきた。次はフクロウカフェに行く約束をしていた。

「あ、そうだ。煕、来週の日曜日って明後日なんだけど、練習試合だってさ。東高校のやつらとだからかなり気合入るよね」
「え?!」
「聞いてないの? デート行く予定だった?」
「うん」
「さっきチラッと見えちゃったんだよね。日曜日って」
「盗み見するなよ。んじゃ、俺、その日休みね」
 煕はにこっとかわすと隣でユニホームに着替えていた3年キャプテンの千葉義和(ちばよしかず)が凝視する。

「幸田。エースが休むわけないよな?」
 目がするどくものすごく怖い顔をしていた。煕は怪談を聞いてるような身震いをする。
「……先輩? 俺、エースじゃないっすよ?」
「いや、お前は後藤よりも動ける」
「ちょ、俺よりもって」
「休まないよな?」
「……はいぃ」
 恐ろしい顔に負けて、煕は安易に休むことはやめようと決めた。
 デートの約束は午前中だった。試合も午前中。
 時間をずらして会うことに決めた。ポチポチとスマホに時間変更をする。
 璃乃は簡単にOKと返事が来た。本当は全然OKじゃなかった。
 フクロウカフェは10時から15時までの営業時間で待ち合わせ時間が15時では行けない。
 もう璃乃は当日に本当のことを言おうと決める。
 化粧室の鏡の前、スマホの画面にため息をついて、バックにしまう。デートの約束ができただけでもいいかと納得させた。