「キャラが合うのかどうか心配っていうか。まぁ、人ごとだからどうでもいいんだけどさ」

「ふーん、優しいじゃん」

 神部が、にやっと笑った。切れ長の目の奥に、疑いの色がまだ残っている。

「アニオタか。どうだろうな。ヨシカワはド真面目(まじめ)タイプだよ。アニメとかアイドルに興味があるようには見えなかったけど。
 正直まともに話したことなかったんだよな。けっこう頭がいいけど、大人しくて目立たない子だよ。
 いま何組にいる? ガモ、知ってるんだろ。直接見に行けばいいじゃん」

 もっともな指摘(してき)に言葉が詰まった。が、僕にしては天才的に頭が働き、

「あー、友だちからさっき話を聞いたばっかだから。その彼女、もう帰っちゃったみたいだし。
 ほら、人って見た目だけじゃわからないじゃん。とくに女子はさ。性格ってどうなのかなーって思って。
 そっかそっか。ド真面目で大人しいのか。なるほどなるほど。ごめん、神部。引き止めちゃって。いろいろサンキューな」

 これ以上話していると、ボロが出そうだ。僕はさっと右手をあげて一段上の階段に足をかけた。すると、

「あぁ。アニオタな友人の恋が成就(じょうじゅ)するよう、陰ながら祈ってるよ」

 神部はすこしばかりおもしろがっているふうな口ぶりで、軽快に階段を下りていった。

 神部の残り香がふんわりあたりに漂い、()ぎ慣れているはずのその匂いが、僕の鼻腔(びこう)をいつになく刺激した。

 青葉とグレープフルーツをミックスさせたような、じつにすがすがしい匂いだ。

 じぶんの体臭をとくに意識したことはなかったけど、急に気になって右腕をあげた。

 (わき)の臭いを()いでみたら、ちょっと酢っぱ臭い感じがしないでもない。

 デオドラントスプレーを買って帰ろう。

 第一に着手すべきことは、それだと思った。