「わたしね……悲しいときやつらいときに泣いたって、現実はすこしも変わらない、涙はなんの足しにもならないって思ってたの。
 でもさっきヨシくんが言ってくれたとおり……現実は変わらなくても心が……いまなんだかすごく心が軽くなってるの。
 ほんとよ。すっきりしてるの。言葉の力ってすごいね。
 ありがとう、ヨシくん……」

 涙で濡れたチヒロのまつ毛が、しずかな瞬きのたびに、銀粉を散らしたようにきらめく光を放った。

 僕はこの世でもっともきれいなものを見ている思いで、チヒロに言った。

「今日は……いろいろあって疲れたよね。……帰ろう。僕たちのうちに」