どれくらいそのままでいたのだろうか。茫然自失となって反応できないでいる私を残し、吉松はいつの間にか帰っていた。気がつけば、部屋は暗闇に包まれている。

 机の上には、白いボア手袋とUSB、それから、冷め切ったお茶。

 いつの間にか手が冷え切っていた。無意識に机の上の手袋へと手が伸びる。あの日、徹に渡したはずの手袋がなぜ、ここにあるのか? 手袋を手に取ると、昼間の来客の言葉が蘇ってきた。

「瓦礫の中から、発見された遺体の一部が、徹氏のものと判明したそうです」

 徹はもうこの世にはいないーーーー

 そんなこと、あるはずがないと思いながら、彼の存在を、匂いを感じたくて、白いボア手袋を強張った顔に押し当てる。しかし手袋からは、自分が普段つけている香水の香りがするばかりで、彼の残り香を感じることはできなかった。

 徹はなぜこの手袋を、ロボットの手に填はめたのか?

 机の上のUSBへと視線を向ける。吉松は、このUSBに徹が私に宛てたデータが入っていると言っていた。そのデータを見れば、徹の意図がわかるだろうか。

 思考が停止しそうになりながら、それでも、本能が真実を知りたいと私の体を動かす。私はパソコンを立ち上げると、USBを挿入した。

 “柚季へ”と名前のついたファイルデータが一つだけ入っている。そのファイルを、無心でクリックした。