「あれ……、降谷くん? いまなんのポスターを見てるんだろう」

 ーー9月9日の放課後。
 降谷くんが学校の昇降口に掲示されているポスターにスマホをかざして写真を撮っていた。
 ふとそのポスターが気になって彼の後ろからそっと覗き込む。

「校内似顔絵コンクール? もうこの時期なんだぁ。毎年恒例だよね。今年の大賞賞品はワイヤレスイヤホンかぁ。ふむふむ……。今年も賞品が豪華だねぇ」

 ぽつりと呟くと、降谷くんはギョッとした目で振り返った。

「なんでお前がここに」
「だって、降谷くんを見かけたからなにしてるかなぁと思って」
「気軽に話しかけられても困るって言ったはずだけど」
「そんなに古い話、もう忘れちゃったよ」
「……」

 彼は黙っていても、目が「先日の話だろ」と訴えてくる。

「ねねっ、もしかして校内似顔絵コンクールに興味があるの? この前、降谷くんの部屋に入った時に絵がたくさん飾られていたし、大賞をとったら賞品もらえるしね」
「お前には関係ない」
「照れ隠しでしょ。ねぇ、参加してみようよ。えっと、校内に展示されるのは10月1日かぁ。まだ3週間くらい時間があるね。私、モデルをやってあげるから参加しようよ!」

 彼の横について少し前のめりになってそう言うが、彼は顔色一つ変えずに方向転換して足を進める。

「そーゆーのお節介」
「ちょ、ちょ、ちょっと……、降谷くん!!」

 降谷くんは相変わらずだ。
 私の言葉なんて聞き入れる気がない。
 彼がわが家に来てから私たちの関係は平行線のまま。
 自分だけが盛り上がってる状態に。

 暗い表情のまま佇んでいると、向こうからりんかが傍に駆け寄ってきた。

「み〜つき! 元気なさそうだけど、また降谷くんに告ってたの?」
「違うよ。ただ、話をしてただけ」
「いい加減諦めなって。降谷はその辺の芸能人よりイケメンだし人気があるの。私たちには所詮高嶺の花なんだからさ」
「う、うん……」

 彼の方に目を向けると、その近くにいる女子がキャアキャアと騒ぎ立てている。
 もう見慣れている光景だ。
 一緒に暮らしていても彼は手の届かない人。
 私のことなんて一切無関心。
 今年で3年目の片想いの人。
 そして、それ以上でもそれ以下でもない関係だ。

「みつき、さっきこのポスターを見てたの?」

 りんかが壁のポスターに指をさしたのでこくんと頷く。

「毎年恒例の校内似顔絵コンクールの今年の大賞賞品はワイヤレスイヤホンなんだって」
「へぇ、今年の景品も豪華だね! 毎年参加者が殺到するのは納得がいくわ。……で、みつきは参加するの?」
「えっ」
「大賞とったらワイヤレスイヤホンだよ? 先日イヤホン壊れたから欲しいって言ってなかったっけ?」
「あ、うん……。確かに壊れたけど……。このコンクールの選考って、確か生徒の投票方式じゃなかったっけ?」
「そうそう。似顔絵は体育館に展示されるから、生徒はエントリーしている絵を選んで学校から配布された投票用紙にエントリーナンバーを書いて投票するんだったよね」
「今年も参加者は多いかな」
「賞品目的の人が多いかもしれないね。200作品は超えるかも」

 降谷くんは参加するのかなぁ。
 でも、描くとしたら誰の絵を? ちょっと気になる。
 はぁ……。『私モデルやってあげる』なんて言って少し押し付けがましかったかなぁ。
 多分、こーやってずかずかと心の中に入り込まれるのが嫌なんだよね。
 私にはいつまで経っても高嶺の花かもね。