「ごめんな、日中、全部任せっきりにして」
あぁもう、なんでわかってくれないの。
私は、衣服や掃除用具が散らかった床に目を落とすことも、目の前の夫の顔をみることも、私が抱っこをしたままじゃないとぐずり出してしまう子供を見ることもしたくなくて、思わず目を瞑った。
「俺が抱っこするよ。まだ風呂入ってないだろ?ゆっくり浸かって休んできてよ。早く帰れなくてごめん」
その『ごめん』が、私を苦しくさせてるの。私を心配するかのように眉を八の字に下げているだろう夫の表情が頭の中に勝手に浮かんできては、私の胸を締め上げるかのように苦しくさせる。
私が欲しいのは、『ごめん』なんかじゃないの。
「いいって言ってるじゃん。それよりごはん、冷凍食品で済まして、早く寝てよ!明日から仕事あるんでしょ!」
私が言いたいことも、こんな酷い言葉なんかじゃないの。
素直に伝えられない、どうしようもないもどかしさで、目頭がジンッと熱くなって、薄い涙の膜が張る。
それがバレないように、くっと目に力を入れて、夫から目を逸らした。
「私の仕事は、育児だけだから……っ」
「そんなこと……」
「触らないで!」
ハッと息を呑む声が耳元で聞こえるとともに、喉が詰まったかのようなそんな感覚。
私を落ち着けようとしたのだろう、私の肩を抱こうとした夫の手を払い除けたのだ。
___最低。
そんな二文字が頭の中をぐるぐると回り続け、気づけば私の足は玄関へと向かっていた。
「どこ行くの?なあ、待てって」
「……」
呆然としていた夫が慌てたように足を動かした時にはもう遅く。
夫がリビングを出て、玄関前の扉を開けたであろう時には私はもう、玄関の扉の外側にいた___。