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「ちゃんと天国に行けたかな?」

「彼なら大丈夫よ」

「でも、触れちゃったけん。もしかしたら地獄に……」

「きっと大丈夫。だって彼の本当の願いは紫苑と再会することだったはずだから」

「もしかして知っとった?」

「ご両親と再会したあたりからなんとなく。どこか満たされてない顔してたし、全然浄化される様子なかったし」

「でもどうして急にいなくなったと?」

「紫苑ってば急に記憶無くすんだもん。さすがに焦ったよ。あのままだったら再会しても意味ないから急いで末那さんと琉那さんのところに相談に行ったら力を貸してもらったの」

あのとき、みんなのおかげで記憶の毀棄は免れたかのように思えたけれど、無理に機械を止めたことで脳に衝撃を与え、一時的に記憶が消えてしまったみたい。

彼が消えた後、足元に咲いていた花ははじめからなかったのように消え、元の雲海に戻っていた。

彼のキリッとした目、高い鼻、柔らかな唇、優しい声、照れたときの恥ずかしそうな顔、痩躯なのに割れた腹筋、チャラそうに見えて真面目なところ、物知りだけどたまに面倒くさいところ、何よりも私のことを考えてくれているところが好きだった。

ーねぇ、けいくん。

『紫苑』の花言葉って知ってる?

紫苑の花言葉はね、『遠くの人を想う』だよ。

皮肉だよね。

本当にそばにいたかった。ずっとずっとそばにいたかった。

こんなこと言ったら怒られちゃうかな。

でもね、後悔ばかりの人生で良かったなって思っているよ。

哀しいこと苦しいこといっぱいあったけれど、こんなにも愛してくれたのはあなただけ。

おかげでね、ちょっとだけ、本当にちょっとだけポジティブになれたんだよ。

命は巡るものだからさ、いつか会えたらいいな。なんてね。

時間は戻らないけれど、あなたと過ごした時間は決して忘れない。

こんなにもわがままな私を好きになってくれてありがとう。


あの日、滝沢商店の前であなたを好きになって、どんどん好きになっていって、大切にされて、守ってもらって、なのに殺してしまった。
そう思っていた。
でもあなたは笑顔でいてくれた。
最初から最期まで変わらず愛してくれた。

これから先、恋をすることはない。

きっとあなた以上の人なんて出会わないから。

だから私は永遠にこの世界で涅槃師として死に続けるよ。