「あのね。今日、結衣に報告、っていうか。相談したいことがあるの」

 「……うん」

 やっぱり相談があったんだ。……でも報告ってなに?
 どういうことかさっぱり分からないけれど、もう長く会っていなかった私に相談しようと考えてくれたのが、とても嬉しかった。
 真子は俯いていた顔をあげ、口を開いた。

 「あたし――離婚、したんだ」

 思わず「えっ」と発してしまうほど、私は驚いた。ううん、驚いたというより、理解ができなかった。
 ――離婚? 結婚の間違いじゃなく?
 というか真子が結婚していたなんて、知らなかったから、頭のなかの整理がつかない。

 「ごめん、黙ってて」

 「う、ううん、大丈夫……って、結婚してたの?」

 「親同士が決めた結婚だよ。今はそんなお見合いなんて、やらないと思ってたんだけどね。代々そうらしくて」

 確かに、真子は神社を継いでいる。
 家系がそうらしく、真子は高校のとき、神社を継ぐ気はないと言っていた。だけど真子は兄弟もいないし親戚も少ないため、泣く泣く神社を継ぐことにしたんだ。
 お見合いなんて……私だったら嫌だな。人生のパートナーだもの、自分で決めたい。

 「もちろん、結婚式は挙げたよ。結衣は絶対招待しようと思ってたの。でも……できなかった」

 「どうして?」

 「あたしが本当に好きな相手と結婚したわけじゃないからよ。結衣には無理やりの結婚式なんて見てほしくない。好きじゃなかったの」

 真子が結婚した相手は、真子にとって本当に好きなわけじゃない。だけど無理やり結婚式を挙げた。それを、私に見せたくなかったんだ。
 結婚式に呼んでもらえなくて、勝手に少し寂しくなっていた。結婚していたことも知らなかったし。
 だけど私のこともちゃんと考えてくれていたんだね。

 「それで本題なんだけど、どうして離婚しちゃったの?」

 「うーん……すごく優しくてあたしには勿体ないくらい素敵な人だったけど、あたしの人生の相手とは、ちょっと違う気がしたんだ。親の反対を押し切って離婚しちゃった」

 てへ、と笑う真子。
 でも私には無理して笑っているのが分かる。顔が引きつっているの、バレバレだよ。

 「ねぇ、真子。私の前ではそんな無理して笑わないでいいんだよ」

 「え……」

 「私が気づかないとでも思ってた? 高校のときずっと隣にいたんだから、分かるよ。無理して笑う真子、見たくないもの」

 そう言うと、真子は「ありがとう……」と言いながら、静かに涙を流した。
 私は初めて、真子の涙を見た。