“あの場所”というのは、公園のそばにある小さな小さな秘密基地のことだった。
 私と真子は高校時代その秘密基地を見つけて以来、辛いことや苦しいことがあったとき、そこへ行くようにしていた。

 秘密基地が小さな規模だからか、そこへ行くと安心できる。私も真子も子どものように泣きながら秘密基地へ向かったことがある。……なんか、懐かしいなぁ。
 私をそこへ呼び出すということは、多分、何か相談したいことがあるんだと思う。

 午後七時になり、秘密基地へ行く準備をする。
 準備といっても化粧と、スキンケアと、ヘアアイロンと……くらいだけど。
 大人になって変わってしまったな、と思う。子どものときはそんな自分磨きなんてしなかったし、ただ無邪気に遊ぶことだけが幸せだったもの。
 そう考えながら、家を出る。

 辺りは真っ暗。
 月は出ていなくて、星がいくつか空に浮かんでいるのが分かる。
 人間は星の数ほどいるって聞くけれど、眼ではそんなにないように見えるよね。空を見ると、私ってこんなに小さいんだな……なんて、思ったりもする。
 冷たい風がぴゅーっと私を横切った瞬間。

 「結衣ーっ」

 「真子……!!」

 真子は、変わっていなかった。
 髪の毛の長さは肩につくくらいのボブで、前髪がきちんと揃っている。肌も綺麗で、目も大きくて、服も可愛くてさ。
 ――私の親友だってすぐに分かった。

 「結衣、急に誘ってごめん。来てくれてありがと。全然変わんないね、やっぱり髪も綺麗でいいなぁ。私癖っ毛だから羨ましいー」

 「大丈夫だよ、全然。真子のほうが断然可愛いと思うけど……。それより秘密基地行こう」

 「あ、うん。そうだねぇ」

 何を話せばいいのか分からなくて、沈黙が続く。
 変な感じ。高校時代あんなバカやって毎日楽しんでいたのに、こんな空気になるなんて。
 秘密基地へ向かって中へ入ると、懐かしい香りがして、虫が何匹がへばりついていた。

 「うわぁ、ほんと懐かしい。何かあの頃に戻った感じして嬉しいわー」

 「ね、ほぼ毎日来てたようなものだもんね」

 「それなー! はぁ、あたしたちも年とったんだなぁって思うよねー」

 それから、他愛もない話をした。
 高校卒業して大学へ行ったのかとか、今どういう仕事をしているのかとか、恋人がいるのか……とか。
 そんな話をすると、もう時間は進んでいるんだなって少し寂しくも思う。

 「結衣は、結婚願望とかないのー?」

 「うん、まぁさすがにいつかはしたいと思うけどね。別に今はいいかななんて。仕事が好きだし」

 「あははっ、なんだか結衣らしい。そっかぁ……」

 そのとき、真子は表情を曇らせた。